「今日は10点ぐらいの演技です」

2025年11月8日、GPシリーズ、NHK杯、女子シングル、FSで演技する青木祐奈 写真/西村尚己/アフロスポーツ

 青木祐奈にとって3年連続3度目のNHK杯は、前週のスケートカナダからの連戦となった。

 ショートプログラムは思うような演技にならなかった。ジャンプでのミスが響き、56.72点と自身のベストスコアから13点強低い得点にとどまり、9位で終えた。

「自分の中で許しがたいミスです。絶望、みたいな感じです」

「今日は10点ぐらいの演技です」

 失意は隠せなかった。

 迎えたフリーは一転する。

「満足には行かなかったんですけど、無事まとめて、昨日は恥ずかしい演技だったので穴があったら入りたいという感じだったんですけど、今は少し堂々としていられるかなと思います」

 観る者誰もが引き込まれるような笑顔と滑らかな柔らかい動きで曲の世界を表現する。それは青木ならではのスケートだった。曲調に合わせ、観客席からも手拍子が起こり、場内の熱が高まる。

「(手拍子で)背中を押してくださって、試合にいつも疲れを感じるんですけど、ステップのときに疲れてないなと思うくらい手拍子に助けられました」

 得点は126.59点の自己ベスト。6位と順位を上げて大会を終えた。

 ショートプログラムからの切り替えは簡単ではなかったと言う。

「公式練習の後とかもけっこう泣いていたんですけど、とにかく『楽しむ』を目標にしていたので、アイスショーだと思って、自分にスポットライトがあって、そういう風に楽しんで滑れたらなと思って、それが心の入れ替えになりました」

 その経験はこれからにつながる。

「今回、ショートの演技からこのフリー、100点ではないんですけど、まとめることができました。全日本でももし同じようなことが起きたらいかせるかなと思います」

 武器とするトリプルルッツ-トリプルループは入らなかった。それでも得られた点数に手ごたえを感じる。

「武器がなくてもこれだけ評価していただけた、というのはとても励みになりますし、自分の強さがジャンプだけじゃなく、下の点数(演技構成点数)ですとか、そういうところでも出たかなと思うので、ほんとうにジャンプ以外のことを磨き続けてきてよかったかなと思います」

「プログラム自体、明るい曲調でテンポの取り方であったり、すごいキャッチーな振り付けとていうのをたくさん入れていただいたので、今までわりときれいな曲調で滑ってきた私には新鮮で、少し背中を丸めるというバレエと反対の動きというのも、ちょっとジャズな感じというのも学べたかなと思うので、きれいさだけじゃない、フィギュアの動きを学べたかなと思います。新しい私をお見せできているかなという感覚はありますし、たくさんの方が見て幸せになってもらえたらうれしいなと思っています」

 ときに競技人生そのものについて考え、悩んだこともある。それでも前を向き、まっすぐ府フィギュアスケートと向き合い、歩んできた。だから到達した1つの地平がある。

 そして今なお、成長できている喜びを感じる。