「自分が最後どう締めくくりたいか」

2025年11月8日、GPシリーズ、NHK杯、女子シングル、FSで演技する樋口新葉 写真/スポーツ報知/アフロ

 フリーの演技を終えたあと、うずくまるように膝と手を氷につくと、しばらく動けなかった。波打つ肩が呼吸の激しさを示している。そして立ち上がったあと、樋口新葉は涙を浮かべた。

 順風満帆とはほど遠い状態だった。9月初旬の木下グループ杯に出場後、右足甲を傷めた。練習できない期間が続き、10月の国際大会は欠場をよぎなくされた。そこから回復を図り、迎えたのがNHK杯だった。

 ショートプログラムはジャンプにミスが出て10位。

 迎えたフリー。

「できることを出し切れればと思っていました」

 その思いを込めた滑りは、気迫に満ちていた。冒頭、ダブルアクセル-トリプルトウループを成功させる。その後のジャンプは回転不足をとられ、転倒も一度あった。

 それでも演技に弛緩はない。終盤には切れ味のあるステップで魅了する。ここまでの練習過程を考えれば疲れはたまっていただろう。でもそれを感じさせない動きだ。それを後押しするように場内に手拍子がこだまする。

 フィニッシュ。その後の様子は、「出し切った」ことをまざまざと伝えていた。

 演技を終えて取材の場に現れたときの表情も同様だった。

「昨日のショート(プログラム)と違って、地に足がついた感覚で滑ることができました。自分の最高のパフォーマンスができる状態ではない試合で、滑りきれたのがうれしかったです」

「今日はいつも通りの試合の出来ですごくいい集中をした中で自分のジャンプの感覚を取り戻せたり、変にかばうような動きがなくできたので後半のジャンプで失敗した部分もあったんですけど、そこは体力面で強化していく部分なのかなというふうに感じました」

 足は治ったわけではない。この日も痛み止めを飲んで出場している。その中でも出し切れたこともあるだろう。穏やかな明るさをどこかに漂わせる。さまざまな起伏を経験してきて得た境地も、自負もある。

 樋口は坂本同様、今シーズン限りでの引退を表明している。

「自分が最後どう締めくくりたいかを考えながら、過ごしています」

 NHK杯を9位で終え、週末には連戦でスケートアメリカに出場する。そして年末には、全日本選手権を迎える。

 それぞれにここまでの足取りは異なる。置かれている状況も異なる。でも共通するものがある。自身のさらなる成長と、演技の向上を目指す姿だ。

 3人は、NHK杯でそれぞれに糧を得て進んでいく。