巨大な爆発を伴う「地下核実験」の準備には最低3年かかる

 核実験と言えば「不気味なキノコ雲」を想像するかもしれない。だがCTBTでは大気圏内(いわゆる地上)はもちろん、水中、宇宙空間、地下での核爆発による核実験を全面禁止しており、アメリカも同様に「核モラトリアム」で同様の措置を順守している。

 トランプ氏が核実験再開を指示したとしても、キノコ雲が発生する「70年前の光景」の再来は現実的ではない。放射能汚染を考えれば、米国民はもとより岩盤支持層の支持を失うことは必至だ。

 実施するとすれば、放射性物質が大気圏内に放出される割合が極めて少ない地下核実験か、または核分裂の連鎖反応を抑え、収集したデータを基にコンピューターでシミュレートし、主に既存の核兵器の性能を定期的に確認する場合に使う「臨界前核実験」が本命だろう。

「地下核実験」は、実際に巨大な爆発が伴うため、実験場の入念な準備に少なくとも3年はかかると言われるため、費用対効果や時間的な点も考えれば、臨界前核実験が現実的だ。

 米FOXニュースによると、米エネルギー省(核実験場は同省傘下の国家核安全保障局・NNSAが管轄)のライト長官は「いわゆるシステムテストで、臨界前核実験のことだ」と断言。この方式であれば「核爆発がない」というCTBTの規約にも抵触せず、核物質の大気圏内への放出もない。

 現にアメリカは1997年から臨界前核実験を始めており、これまで平均して1年間に1~2回の割合で実施してきた。直近では2024年に行ったが、その実施ペースを多少アップする程度でお茶を濁すようにも思える。

年に1~2回のペースで臨界前核実験が行われている米ネバダ州の核実験施設(NNSS、地図:共同通信社)

 だが、仮にトランプ氏が描いている「核実験」が、1950年代に盛んに行っていた大気圏内、つまりキノコ雲を伴うもので「これぞパワーの象徴だ」と考えていたとしたら、状況は深刻になる。

 トランプ氏は核実験を始めるよう国防総省に指示したと言うが、前述のように臨界前核実験は定期的に実施しており、いまさら「開始する」と表現するのもおかしな話だ。これを踏まえれば「キノコ雲」が出現する大気圏内核実験の実施を求めているとも読めるが、こうなるともはや時代錯誤としか言いようがない。

 デンマーク領グリーンランドを一方的に「譲れ」と言い出したり、パナマ運河を「返せ」(1999年アメリカは運河一帯をパナマに全面返還)と叫んだりするなど、列強が跋扈(ばっこ)した前世紀の帝国主義的な発想で世間を困惑させているトランプ氏。今年9月にはすでに退役・保管中の“第2次大戦型”の老齢巨艦、「アイオワ」級戦艦の復帰もぶち上げた。

 実際に核戦争に陥ることだけは避けながら、しかし核搭載のミサイル開発を加速する中ロに後れを取るわけにはいかない──。突如降って湧いたトランプ氏の「核実験再開宣言」は鬼が出るか蛇が出るか。

空中給油を受ける米空軍のB-2ステルス戦略爆撃機。B-83核爆弾などを運用(写真:米空軍サイトより)