2025年10月26日、就任後初となった外交日程を終え、政府専用機に向かう高市首相(クアラルンプール国際空港、写真:共同通信社)

高市氏が防衛力強化で掲げた「VLS潜水艦」とは

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 日本史上初の女性総理となった高市早苗氏は、保守・タカ派を自他ともに認め、基本理念の中心に安全保障・防衛力の強化を置く。

「保守・タカ派」「その国で初の女性首相」と言えばイギリスのサッチャー元首相と共通するが、高市氏自身、尊敬する人物はサッチャーだとアピールしていることもあり、“東洋のサッチャー”との声も聞かれる。

 10月24日の所信表明演説では、中国、北朝鮮、ロシアの軍事的動向に懸念を露わにした高市氏。所信表明の“叩き台”となった自民・維新の連立合意書(10月20日策定)を見ると、防衛力強化のための具体策を列挙。その中でも「次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦」と「防衛装備移転三原則の運用指針の5類型撤廃」の2つに注目したい。

 まずVLS潜水艦は、高市氏が最も欲しがっている新装備のようだ。

 VLSとは「Vertical Launch System:垂直発射装置」の略。ミサイルを真上に打ち上げる長さ(高さ)10m前後のランチャーである。この装置を搭載した潜水艦が「VLS潜水艦」で、船体のやや後方に10基前後直立配置するのが一般的だ。

 米、露、中、英、仏の国連安全保障理事会の常任理事5カ国とインドが保有する核弾道ミサイル搭載の「(核)弾道ミサイル原潜」は全てVLS型で、核ミサイル専用の大型発射機を持つが、巡行ミサイルなど他のミサイルの発射と兼用しない。これらは万が一敵が核戦争を仕掛けようと考えた時、「核ミサイルで破滅的な報復攻撃をお見舞いするぞ」という核抑止が最大の存在理由で、常に海中深くひっそりと隠れているのが任務だ。

 これに対し、巡航ミサイルや通常弾頭の短距離弾道ミサイルを搭載し、通常戦闘での使用を念頭に置くのがVLS潜水艦で、前述の弾道ミサイル原潜とは一線を画す。現在、米、露、中、韓が保有する。

米海軍バージニア級原子力潜水艦「USSミネソタ」(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 VLSを持たない一般的な潜水艦も魚雷発射管(直径533mmが国際標準で2~6基装備)から巡航ミサイルを発射できるが、どうしても発射数が限られてしまう。これに比べてVLS6基搭載の潜水艦なら魚雷発射管の魚雷と入れ替えなくても、巡航ミサイル6発、VLS12基ならば12発を連射できる。

 そもそも日本のVLS潜水艦構想は、2022年に作成した安保3文書の1つである「国家安全保障戦略」の中で掲げられ、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の実行アイテムとして一躍浮上した。

 敵の射程外から狙える長射程攻撃力(スタンドオフ攻撃)が重視され、長射程ミサイルの発射母体となり、しかも敵が反撃しようとしても見つけにくいVLS潜水艦に白羽の矢が立ったわけである。