2021年4月23日、中国海軍の主力艦艇「長征18号」「大連」「海南」の就役式に出席した習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

なぜ習近平主席はここまで台湾統一に執着するのか

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 中国による台湾への武力行使(台湾有事)が行われた際、日本が「存立危機事態」と認定し、集団的自衛権で自衛隊を防衛出動させるかどうかで日中が対立している。

 日本の歴代政権は、あえて具体的事例を明確にしない「曖昧戦略」を貫いたが、高市早苗首相がこのタブーに挑んだことで、中国が「内政干渉だ」と猛烈に噛みついている。いわゆる「高市発言」に対する報復として、自国民の日本渡航・留学自粛要請や、日本水産品の輸入停止通告など、日に日に“制裁”のギアを上げている。

 事の発端は11月7日の衆議院予算委員会。立憲民主党の岡田克也元外相が「仮の話」と前置きした上で、台湾有事の時に中国軍がバシー海峡(台湾~フィリピン間)を海上封鎖したら、存立危機事態に当たるか否かと、高市氏に迫った。

 高市氏は、「最悪の事態を想定するのは非常に重要。(中国が)戦艦を使って武力行使を伴うものなら、どう考えても存立危機事態になり得るケースと考える」と言及した。

 余談だが、「戦艦」は第2次大戦で活躍した、巨大な艦砲を擁した最強の軍艦のことで、「軍艦」「戦闘艦」と同意語でない。かつての日本の「大和」「武蔵」や、アメリカの「アイオワ」級が代表格だが、今や時代遅れの兵器。現在実戦配備する国は皆無で、アメリカはもちろん、中国も装備していない。

 存立危機事態は2015年に制定された「平和安全法制」で掲げる「事態対処法」の根幹の1つで、適用要件は厳格だ。

 日本と密接な他国に武力行使が行われ、日本の存立も脅かされ、国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることが大前提だ。さらにこの事態を排除し、日本の存立を全うし、国民を守るための適当な手段が他にないことが絶対条件となる。

 これを踏まえれば、台湾有事で日本が「存立危機事態」として考えられる事態は、日本~中東の石油・LNG(液化天然ガス)海運ルートの要衝であるバシー海峡が封鎖された際の“最終手段”というべきだろうか。

 中国が台湾封鎖を実行した場合、アメリカは「台湾関係法」(1979年制定の米国内法で、台湾防衛のため武力行使もあり得ることを定める)に従い、軍事介入する可能性は十分想定される。

 だが「専守防衛」を掲げる日本も加勢するとなれば話は別だ。米軍介入でただでさえ難しくなる封鎖作戦がさらに面倒になり、成功の見込みが遠のいてしまう。そのため、中国が過剰反応し、けん制しているとの見方もできる。

同盟国との共同対潜訓練に参加する米海軍のP-8哨戒機。中央に米海軍のロサンゼルス級SSN(攻撃型原子力潜水艦)を配し、周囲を日米韓などの艦艇が並走(写真:米海軍ウェブサイトより)

 なぜ中国の習近平国家主席は、台湾統一にここまで執着するのか。専門家や識者の見立てを総合すると、「中華民族復興を達成した偉大な指導者として歴史に名を残したい」という名声欲が大きいらしい。

 毛沢東は中華人民共和国建国の父で、鄧小平は1970年代後半~1990年代後半に改革開放政策を推進し、中国を経済大国へと押し上げた偉人だ。

 だが1953年生まれの習氏は革命闘争とは無縁で軍務経験もなく、共産党エリートとして政治の舞台でのし上がり、2013年国家主席に就任した。中国では国家主席の任期は「2期10年」との決まりだったが、権力を掌握した習氏は2018年にこれを撤廃し、2023年に3期目に突入した。事実上の終身制だ。

 とはいえ、歴史に名を残すには、中華民族にとっての偉業達成が不可欠で、それには民族の悲願である台湾との分裂状態を解消し、統一を果たすのが最もインパクトがあると考えても不思議ではない。