ウクライナ戦争のロシア苦戦を見て台湾着上陸作戦は棚上げか?

 だが2022年に入ると「台湾武力侵攻説」は急速に勢いを失う。

 第1の理由は習氏の「終身制」が盤石になった点だ。当初は2018年に国家主席任期制を撤廃したとしても、政権内部からの批判で「3期目を完了する2027年で引退か」との観測もあった。

 これを回避するため、習氏は2027年までに何が何でも台湾に侵攻し、統一を果たして実績を作り、その後権力の最高ポストに君臨し続けるシナリオを描いているのでは? との説が有力だった。

 だが権力基盤を固めた習氏にとって「2027年」に偉業を果たす意味合いはあまりなくなったと言える。台湾への着上陸作戦を強行し、大損害で敗退となれば失脚は必至だ。あえてそんなリスクを負う必要もなく、中長期戦で構えた方が得策と考えるのが普通だろう。

 第2は2022年2月に勃発した、ロシアによるウクライナへの全面侵攻だ。プーチン大統領は開戦当初「数週間で全土を制圧できる」と豪語したが、100万人以上の死傷者と数千台の戦車喪失を出しながらの長期戦となり、開戦から間もなく4年がたとうとしても、いまだに勝利が得られない。

 戦費の重圧と経済制裁でロシアの国内経済は低迷し、世界屈指の軍事力を誇ったロシア軍は、今や満身創痍の状態。陸続きで大平原が広がるウクライナの戦場でも、これほどの艱難辛苦(かんなんしんく)を味わっているのが実情だ。

 これを考えれば、中国軍侵攻部隊が幅150km前後の台湾海峡を超え、軍事作戦で最も難しい着上陸作戦を果たすのは容易ではない。九州ほどの大きさに2000万人超が暮らし、南北に3000m級の山々が連なる台湾を完全制圧するには、ウクライナ戦争とは比較にならないほどの損失と時間がかかる可能性がある。

 このため中国は「三戦」(心理戦、世論戦、法律戦)を強化し、選挙介入やサイバー戦なども交えながら徐々に台湾を「親中」へと変貌させる戦法を取った方が得策と言える。銃弾を1発も撃たずに敵を屈服させる孫氏の兵法「不戦屈敵」の具現化でもある。

 また並行して、台湾島をぐるりと海上封鎖し、兵糧攻めで締め上げ、台湾政府や台湾軍、市民を降参させる戦術を取る可能性も考えられる。

 今年11月18日、米議会の超党派諮問委員会「米中経済・安全保障調査委員会」(USCC)が2025年版の中国の軍事力・経済に関する年次報告書を公表した。

 同報告書は「台湾有事が遠い将来だと考えることはできない」と指摘し、中国は軍事演習を装いながら、台湾への侵攻や海上封鎖に即座に移行できる能力を持つと警告。米国防総省に対し、台湾有事への米軍の対応力の検証をすぐに行うよう提案している。

 注目は台湾侵攻の可能性がある時期として「2027年」「2035年」「2049年」を列挙した点だ。

 2027年は人民解放軍創設100周年に当たるが、作戦の準備完了時期で可能性は低いと分析。2035年は台湾海峡を渡る高速鉄道構想の完成予定年、2049年は中華人民共和国100周年と節目の年が訪れるため、注意を要すると強調している。