海上封鎖に欠かせない「潜水艦」の戦力は米国側が数段上
果たして、実際問題として中国は台湾を海上封鎖できるのだろうか。
高市氏は“戦艦”の出現を心配するが、肉眼で分かる水上戦闘艦よりも、水面下で隠密行動を取る潜水艦の方が、海上封鎖のカギを握ると見るべきだ。水面下の戦いは誰にも分からないため、もしかしたら、台湾海上封鎖の前哨戦はすでに始まっているかもしれない。
太平洋で共同訓練を行う米海軍のロサンゼルス級原潜(手前)と海上自衛隊の潜水艦(写真:米海軍ウェブサイトより)
英シンクタンク・国際戦略研究所(IISS)発行の『ミリタリーバランス(2025年版)』によれば、アメリカの潜水艦数は65隻で全て原潜だ。
そのうち核弾道ミサイル(射程1万km以上)搭載の「弾道ミサイル原潜(SSBN)」14隻を除く51隻が「攻撃型原潜(SSN)」と呼ばれ、制海権確保のためのパトロールや、敵艦船の探索・攻撃が主な役目だ。
対する中国潜水艦数は59隻で、うち原潜は12隻、通常型(ディーゼル・エンジン型)潜水艦が47隻ある。
中国海軍 094型原子力潜水艦(写真:ロイター/アフロ)
原潜のうちSSBNは6隻、SSNは6隻、通常型は実験艦1隻を除き46隻全部が攻撃型で、台湾封鎖の対象となる隻数はSSN6隻と通常型46隻の計52隻あると見られる。ただしSSNは全艦が“虎の子”のSSBNの護衛に回ると見られ、実際は通常型潜水艦46隻が対象と考えられる。
このうち海上封鎖に投入できるのは最大でも3分の2程度、30隻が限界だと考えられる。 黄海や上海周辺、香港をはじめ珠江デルタなど重要港湾地域や、SSBNが隠れる南シナ海での警戒に回される。
しかも通常型のうち、外洋で長期間活動可能な大型艦は、ロシア製「キロ」級(水中排水量4000トン弱)の10隻だけで、残りは同2000トン級の中型クラスだ。この戦力をローテーションさせて、周囲700km超の台湾島の海上封鎖を中長期間維持するのはかなり大変だろう。
対抗するアメリカは原潜49隻のうち、控えめに2分の1を投入可能と仮定すると25隻が限度と言える。いずれも同7000トン級の巨艦ばかりで、原子力推進のため水中速力も速く、乗員の食料が続くまで何カ月でも潜航が可能だ。
米海軍バージニア級原子力潜水艦「USSミネソタ」(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
近年米海軍は水中ドローン(AUV)による水中偵察・対潜任務にも力を入れている(写真:米海軍ウェブサイトより)
有事となればこの米潜水艦隊に、日本の海上自衛隊の通常型25隻の半分に当たる12隻がひそかに加わることも想定される。海自の潜水艦は全艦が同3500トン以上の大型艦だ。
海上自衛隊の潜水艦「じんげい」の命名・進水式(写真:アフロ)
潜水艦は参戦しているか否かの判断も困難なため、万が一中国側が海自の潜水艦を探知しても、「日本の潜水艦がわが軍の封鎖作戦を妨害している」とは公言できないだろう。潜水艦作戦は全てが「秘中の秘」で、敵発見の事実を明かした瞬間に、自身の潜水艦の技能も推定されてしまう。
現在、台湾も国産の通常型潜水艦(同2500トン)を建造中で、2027年までに2隻が実戦配備予定となっている。
台湾 国産潜水艦の進水式(2023年9月、写真:ロイター/アフロ)
このほか、豪州やカナダ、イギリスが各1~2隻米側に加勢した場合、これらを総合すると、米側は40隻以上の潜水艦戦力となり、中国の30隻を徹底的に追跡し、妨害することができる。