石川島灯台(人足寄場ああった場所、写真:KO-TORI/Shutterstock.com)
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 NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第38回「地本問屋仲間事之始(じほんどんやなかまことのはじまり)」では、蔦重が鶴屋の計らいで、決裂した政演(山東京伝)と再び出会う。一方、松平定信は厳しい出版統制へと乗り出すことになり……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

同僚から反感を買っても仕事に打ち込んだ長谷川平蔵

 大河ドラマ『べらぼう』で、歌舞伎役者の中村隼人が演じる長谷川平蔵宣以(はせがわ へいぞう のぶため)。池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』のモデルとして知られている。

 ドラマの序盤から登場していたが、親の金を使って吉原で遊びまくるボンボンだった頃から打って変わり、今は町の犯罪を取り締まる“シゴデキ男”として大活躍だ。

 それはドラマの中だけの話ではない。実際の平蔵も若い頃は放蕩無頼の生活を送っていたが、父と同じく西の丸御書院番の番士となると、以降はマジメに任務に励んだ。

 そして、42歳で「火付盗賊改(ひつけとうぞくあらためかた)」の役を命じられたことで、人生の転機を迎える。「火付盗賊改」とは、江戸の放火犯・盗賊・博徒を取り締まる役職のことである。

 よほど向いていたらしく、平蔵は「捕物の名人」と言われるほどの結果を残している。町人たちからは「平蔵様、平蔵様」と称えられたと、松平定信の側近・水野為長(ためなが)が『よしの冊子(そうし)』で記録している。

 ただ目立とうとして、ややスタンドプレーに走りがちだったようだ。自家の定紋入りの高張提灯を自費で通常の倍も作り、あらかじめ同心全員に配っておき、火事の際には誰かしらがその提灯を持って、すぐに現場に現れるように手配。「火事となればどんな場所でも平蔵が現れる」と町の人に錯覚させるように仕込んでいたりもした。

 松平定信は自伝『宇下人言』で「冴えすぎたことをするがゆえに、危うさがあると陰でいう者もいないでもない」としている。

 実際に周囲には、平蔵の活躍が面白くないと思っていた人もいた。平蔵が火付盗賊改の加役に任命されたときには「長谷川宣以のようなものを、なんで加役に仰せ付けるのか」と同僚から不満の声が上がったりもした。やっかみに負けじと、平蔵は仕事に打ち込んだのだろう。