覚醒の一年を象徴する「金鯱賞」圧勝
サイレンススズカの生涯成績を振り返ってみると、全16戦9勝、うちG1勝利1度、(1998年宝塚記念)というもので、この数字から見れば突出した名馬とは言いがたいかもしれませんが、同馬が覚醒し6連勝を記録した1998年の6レースがすばらしい。今見ても見る者を「強い、すごい、笑っちゃうほど感動的!」とうならせてくれるものです。
1998年2月のバレンタインステークスから10月の毎日王冠まで破竹の6連勝を遂げるサイレンススズカですが、覚醒のきっかけは、その前年暮れ、1997年12月に香港で行われた「香港国際カップ(G2)」レースに武豊騎手が初めて騎乗したことにありました。そのときは5着に終わりますが、武騎手が果敢に逃げる戦法をとり、ゴール近くまで先頭を譲らないというレースぶりで惜しい5着でした。
香港での覚醒以来、武騎手が騎乗し続け(宝塚記念を除く)、他馬を寄せ付けない「逃げ戦法」によってサイレンススズカは連勝街道を突っ走ります。連勝街道の4勝目は5月30日に中京競馬場で行われた「金鯱賞」でした。このレースは画像を通して何回見ても頬が緩んでしまうレースです。ギャンブルとは離れて、ただ1頭の馬のパフォーマンスに酔わせてもらえるからなのでしょう。同馬全レースの中で、このレースが私の一番のお気に入りでもあります。
サイレンススズカはスタートから独走、ゴール前の直線に入っても2着馬との差は縮まらず、観客席からは拍手が起こるという、あまり見たことのない光景が広がります。騎乗している武騎手も、めずらしく直線で後ろを振り返っています。きっと後続馬の蹄の音も聞こえてこないほど差が広がっていたからなのでしょう。
このときの2着馬との差、1.8秒(約11馬身)という大差は、JRAの平地・芝の重賞レースでこれ以降、破られていないのではないでしょうか。出走馬のレベルが低かったわけではなく、2着のミッドナイトベットは前走「京都記念(G2)」で勝利、3着馬タイキエルドラドは前走「アルゼンチン共和国杯(G2)」で勝利、前年の菊花賞優勝馬マチカネフクキタル、マイルチャンピオンシップ(G1)優勝馬トーヨーレインボーと実力馬が揃っているレースでした。