2025年9月14日、世界陸上東京大会、男子10000m決勝での葛西潤(右)と鈴木芽吹 写真/青木紘二/アフロスポーツ
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(スポーツライター:酒井 政人)

葛西潤がレースを引っ張った理由

 東京2025世界陸上の男子長距離種目。結果だけを見れば日本は“惨敗”したといえるかもしれない。25人が出走した男子10000mは鈴木芽吹(トヨタ自動車)が20位、葛西潤(旭化成)が22位。20人が出走した男子5000m予選1組は森凪也(Honda)が15着に終わったからだ。

 しかし、日本人選手たちは“明確な意図”を持ってレースに臨んでいた。

 男子10000m決勝は大会2日目(9月14日)の21時30分にスタート。気温30度という過酷な条件だったこともあり、超スローペースになった。2000mを6分23秒で通過すると、葛西潤(旭化成)が上がっていき、2800m付近で先頭に立った。

「ペースがあまりにも遅かったので、急激に上がって、急激に落ちる、を繰り返すことになると厳しい。それなら少しでも一定のペースを刻んだ方がいいと思って前に出たんです」

 しかも葛西はトラックレースでは珍しく、こまめに給水を摂取した。これも戦略のひとつだった。

「余裕のあるうちに給水を多めに取ることを意識しました。女子10000mの廣中璃梨佳さんのレースを見ていても、その方が後半に生きてくるかなと思ったんです」

 葛西が給水を取りに行くと、鈴木芽吹(トヨタ自動車)が集団を引っ張り、しばらくは日本勢がトップを駆け抜けた。4600m付近からアフリカ勢が前に出て、5000mは15分10秒ほどで通過。葛西と鈴木は6000m付近から苦しくなる。

 ただ先頭は6700m付近で急激にペースがダウン。7200m過ぎから葛西が再び前に出た。

「ちょっときつかったので根性を見せようと思って出ました。残り2000mぐらいからの勝負になるような空気を感じていたので、少しでも前に出て人数を絞れたらいいなと思っていましたし、とにかく必死でしたね」

 決死のペースアップを放った葛西だが、世界の猛者には通じない。逆に残り5周で急降下を余儀なくされた。

 トップ集団の本格勝負は残り2000mを切ってからで、猛烈スパートを見せたG.グレシエ(フランス)が28分55秒77で金メダルに輝いた。日本勢は鈴木が29分33秒60で20位、葛西が29分41秒84の22位。終盤の2000mほどで30秒以上の大差をつけられるかたちになった。