2025年9月18日、世界陸上東京大会、女子800m予選での久保凛(左) 写真/長田洋平/アフロスポーツ
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(スポーツライター:酒井 政人)

19歳の落合晃は世界王者とのレースに大興奮

 東京2025世界陸上、日本中距離界の若きエースが“世界の扉”に手をかけた。800mに出場した落合晃(駒大)と久保凛(東大阪大敬愛高)だ。

 男子800m予選は大会4日目(9月16日)のイブニングセッションに行われた。各組3着以内と4着以降の記録上位者3名に入れば準決勝に進出できる。1分44秒80の日本記録を持つ落合は5組に登場した。

「日本記録を出して準決勝に進むのが一番の目標でした。最初の200mを24秒で入るイメージをしていたんですけど、なかなか前に出ることができなくて……」

 国内では無敵状態で自ら引っ張ることの多い落合だが、200mを24秒89で入るも9人中8番目。400mは52秒24で最下位通過となった。2周目で徐々に順位を上げるも、5~6番争いに加わるのが精一杯。終盤は逆に引き離された。

「2周目のバックストレートから仕掛けていくイメージでしたが、そのタイミングで全体のペースもグッと上がって、なかなか前に出してもらえなかった。ラストにもう一回まくってやろうという気持ちでいったんですけど、前はもう一段階上がった感じです」

 落合は1分46秒78の7着でフィニッシュ。予選通過はならなかったが、この種目の世界大会日本人最高タイム(1分47秒16/横田真人/2007年)を更新した。

 レース後は、「凄い声援のなかを走らせていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです」と素直な感想を口にした落合。しかし、「戦えなかった」という気持ちは強く残っている。

 今夏はスイス・サンモリッツで高地合宿を行い、「日本記録を出せる仕上がりと感覚があった」と調子は上々だった。しかも大声援が日本記録保持者の背中を押した。

「初めての世界の舞台でしたが、緊張は全然なくて、東京開催ということもあって、リラックスして臨めました。歓声が凄くて、今まで感じたことのない経験をさせてもらいましたね」

 19歳で世界デビューとなった落合。19歳でパリ五輪の金メダルに輝いたE.ワニョンイ(ケニア)と同じ組となったことにも大興奮していた。

「世界一の選手と走ることができて、本当にやった! という気持ちだったんです。少しでも先頭を引っ張ってやるぞという思いでしたし、ラストは差し切って3番に入るぞ、とも考えていました。でも位置取りがうまくいかず、前に出られず、最後も切り替えることができなかった。力不足を実感していますが、世界一の選手と走れた経験などを今後に生かして、世界の舞台で勝負したいです」