2025年9月20日、世界陸上東京大会、女子5000m決勝での田中希実 写真/アフロスポーツ
(スポーツライター:酒井 政人)
廣中が10000mで東京五輪を上回る6位入賞
無観客開催となった東京五輪で快走を見せたのが廣中璃梨佳と田中希実だ。廣中は10000mで7位、田中は1500mで8位。4年前のヒロインが東京2025世界陸上でも異彩を放った。
まずは大会初日(9月13日)の女子10000m決勝で廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が凄まじい走りを披露する。
昨季は膝の故障でパリ五輪は代表辞退を余儀なくされた。2年ぶりの世界大会は「ワクワク感」を同時に、「今の自分は(世界のなかで)どこにいるのか」という不安もあったという。
廣中にとっては自分の“強さ”を証明するためのレースになった。
「遅いな、詰まるな、と感じたら、自分のペースで行って、後半は粘って、粘って、最後まであきらめなければ、どういう展開になるか分からないと思っていました」
4000m過ぎまでトップ集団でレースを進めるも、給水を取りに行ったタイミングで集団から引き離された。一時は9~10番手を走っていたが、終盤が素晴らしかった。徐々に順位を上げていき、残り1000mを8位で通過した。
「ラスト1000mから、どう切り替えるかを考えていたんです。でも、なかなか前と詰まらなかった。鐘がなる前ぐらいからが勝負だなと思っていたので、そこからしっかり切り替えて、最後1周は絞り出せたかなと思います」
廣中は残り2周でパリ五輪7位のF.テスファイ(エチオピア)を抜き去ると、ラスト1周で5000mのウガンダ記録(14分40秒27)を持つJ. チェプトゥイェクを逆転。最後まで力強い走りで5万人の大観衆を魅了する。トラック最初の決勝種目で31分09秒62の6位入賞。東京五輪とブダペスト世界陸上の7位を上回った。
「東京五輪とブダペスト世界陸上より一つでも上の順位と思っていました。最初から最後まで大声援を感じて、『25周が楽しかった!』と、心から思える試合でした」
大会初日には女子1500m予選も行われた。1組に出場した田中希実(New Balance)は4分07秒34の10着。準決勝進出ラインの上位6着に入ることができなかった。
レース後、「今の私の実力では厳しかった部分もあって、堂々としたレース運びができませんでした。自分の力を出し切っているつもりだけど、出し方が分からないところがあると思います」と語った田中。しかし、数日後、驚きの“調整方法”を経て、自分の殻を破ることになる。