2025年8月16日、Athlete Night Games in FUKUI、男子110mハードル決勝で優勝した村竹ラシッド 写真/森田直樹/アフロスポーツ
(スポーツライター:酒井 政人)
福部が1週間前のタイムを0.01秒短縮
スプリント種目で好タイムが続出したAthlete Night Games in FUKUIはハードル種目がさらに熱かった。
まずは女子100mハードルで日本記録保持者の福部真子(日本建設工業)が快走する。予選で追い風参考ながら12秒83(+2.1)をマークすると、約3時間後の決勝で“待望の瞬間”が待っていた。
福部は清山ちさと(いちご)、寺田明日香(ジャパンクリエイト)、大松由季(CDL)ら12秒台のベストを持つライバルたちを抑えて、真っ先に10台のハードルを跳び越える。速報タイムは「12.74」で止まった。東京世界陸上の参加標準記録に0.01秒届かない。しかし、正式タイムは12秒73(+1.4)で参加標準記録にピタリと到達。会場は祝福ムードに包まれた。
「速報タイムを見て、また74かと思ったら、73になったので良かったです」
この短い言葉に幾多の苦悩が隠れていた。
福部は昨年12月に発熱やリンパ節の腫れを伴う菊池病の発症を公表。当初は「普通の生活が送れるのか」という状況から競技に復帰した。シーズンインが遅れたものの、7月上旬の日本選手権は3位に滑り込んだ。あとは参加標準記録を突破すれば、東京世界陸上の代表に手が届くという状況だった。
現在も37度台の熱が出ることが少なくなく、体調と向き合いながら、「できることを全力でやる」という日々を過ごしてきた。そして1週間前の実業団・学生対抗競技大会を12秒74で制しながらも、目標タイムに100分の1秒届かず、「菊池病になっていなかったら」と涙を流した。
今回のレースを「ラストチャンス」として臨んだ福部。2位の清山が日本歴代4位の12秒84、3位の本田怜(順大)が日本学生新の12秒91(日本歴代7位)というハイレベル決戦を完勝して、東京世界陸上の代表入りを確実にした。
「先週のレースで区間最高タイムが出ていたので、そこをしっかり出していくことと、たくさんあった課題を攻略できれば自然と(12秒73は)いけるかなという感触はありました。クリアに考えて臨んだんです」
思うような練習が積めていないなかでも参加標準記録を突破したことで、「ひとつ上のランクにいけた」という感覚がある一方で、「歯痒い部分があります」と本音がこぼれた。
「自分史上一番難しい世界陸上になるのは覚悟しています。その日、その日でベストを尽くしてきたからこそ、予選、準決勝でも、その日のベストを尽くせば何かしらついてくる。そういう世界陸上も素敵だなと思っています」
菊池病の認知を広めると同時に、同じ苦しみを抱える人たちの“勇気”になるべく、福部は東京世界陸上で自身が保持する日本記録(13秒69)の更新を目指していく。