2025年6月8日、日本学生対校陸上、最終日、男子800mで優勝した山鹿快琉(左) 写真/共同通信社

(スポーツライター:酒井 政人)

エース&主将の最後のインカレ

 今年の日本インカレには「世界」を目指す選手たちも登場。彼らは過密スケジュールのなかでもチームに貢献した。まずは日本インカレの男子100mを連覇している栁田大輝(東洋大4)だ。2度の世界陸上に続いて、昨年はパリ五輪を経験。今季はセイコーゴールデングランプリとアジア選手権を連覇している。

 個人種目は欠場したが、チームの主将として4×100mリレーに出場。予選2組は1走を任されて、メディアを驚かせた。そしてチームは39秒10でトップ通過した。報道陣に「どうでしたか?」と逆質問した栁田。1走は高校時代に数回経験しただけだった。

「手札を増やす目的もあったと思います。僕はどこでも走れるようになりたい。走りにくさはなかったですけど、もっと外側を食いたかったですね。中途半端だったので2走に戻されるかな」

 苦笑いしていたエースは翌日の4×100mリレー決勝でも1走に起用された。東洋大は38秒93の3位に終わったが、栁田は最後のインカレを全速力で駆け抜けた。

「一番いいかたちじゃなかったですけど、100点満点で終わらないところが僕らしいのかなと思っちゃったりしますね。もう大学でリレーを組む機会はないと思うので、ナショナルチームでは何走でもいける準備をしていきたい。次のレースは日本選手権になるので、シーズンベスト(10秒06)以上の走りを目指して、条件に恵まれたら東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)が視野に入ってくる感じにしたいです」

 個人種目では男子110mハードルの阿部竜希(順大4)がハイレベルだった。学生歴代3位の自己記録を0.01秒更新する13秒25(+0.8)をマーク。自身3度目となる東京世界陸上参加標準記録(13秒27)を突破して、連覇を果たした。

 1年前の日本インカレで優勝したが、「まさか自分が主将になるとは思っていなかった」という。しかし、「世界に出るための準備が必要だと感じました」と今季は東京世界陸上の出場を目指して取り組んできた。

 過密スケジュールを考慮して5月の関東インカレを欠場。チームは総合優勝に5点届かず、主将として責任を感じたという。

「最後のインカレ。後悔のないように勝ちにこだわっていたんですけど、それよりも楽しむことを一番に臨みました。課題もわかったので、山崎一彦先生と相談して、日本選手権は勝つつもりで挑みたい」

 世界を本気で目指す主将が牽引した順大が5年連続33回目の総合優勝に輝いた。名門校の主将としてのミッションを果たした阿部。次は日本選手権で「2位以内」に入って、個人の“夢”をかなえるつもりだ。