2025年6月6日、日本学生対校陸上、男子100mで優勝した木梨嘉紀(右端) 写真/共同通信社

(スポーツライター:酒井 政人)

木梨が主観的努力度「9割」で快走

 “学生日本一”を決める舞台である日本インカレ。今年は66年ぶりの岡山開催で、大会初日の男子10000mは玉野光南高出身・黒田朝日(青学大4)の“地元V”に沸いた。そして同2日目の男子100mでも岡山出身のスプリンターが躍動する。津山高出身の木梨嘉紀(筑波大M2)だ。

 準決勝1組は世界リレー代表の井上直紀(早大4)、愛宕頼(東海大4)に遅れて、10秒32(-0.4)でフィニッシュ。2着以内を確保できず、プラス通過となった23歳が決勝で“快走”した。

「人生最後の日本インカレが岡山で開催されて非常にうれしかったですし、お世話になった先生など地元の方々が応援してくださったのも凄い力になったんです」

 最も内側の2レーンに入った木梨は自分のレースに集中。武器の「スタート」で抜け出すと、スムーズに加速していく。そしてライバルたちを抑えて、真っ先にゴールへ駆け込んだ。

 優勝タイムは10秒31(-1.1)、2位は愛宕で10秒36、3位は関口裕太(早大3)で10秒37。7年前、岡山開催の全中を制した井上は10秒37で4位に終わった。

 明確な差はあったが、「正直、びっくりしました」と木梨は自身の勝利に驚いた。一方、レース内容については狙い通りだったという。

「準決勝は注意を2回受けたことでスタートがうまく出られませんでした。自分の持ち味はスタートなので、決勝前のウォーミングアップで谷川聡先生とも相談したんです。今までは前半からフルスロットルで走るレースが多かったんですけど、今回はあえて9割をキープするようなかたちでいきました。主観的努力度は100%より95%の方が高いパフォーマンスが出るというデータもありますし、そこがうまくハマったのかな、と。前半でうまく出られて、中間疾走からも落ちずに最後まで走り抜けることができて、レース内容は評価できるものだと思います」

 木梨の言葉から感じるように、彼は100mというレースをかなりロジカルに考えている。高校時代は10秒63が自己ベスト。順大では4年時に10秒27をマークしているが、関東インカレと日本インカレは決勝の舞台に立つことはできなかった。筑波大院に進むと、昨季は10秒21まで自己ベストを更新。今年は3月の世界室内選手権60mに出場して、準決勝進出を果たしている。そして高校卒業後、5年以上の歳月をかけて、「学生一」に上りつめた。

「順大で多くのことを学びましたが、筑波大院では、それらを発展して自分のなかに落とし込めるようになったと思います。今回は今まで自分の課題だった中間疾走から後半局面にかけての(速度)低下はクリアできました。7月上旬の日本選手権は予選・準決勝で10秒1台という目標をクリアして、決勝でしっかり戦えるような計画を練っていきたいと思います」

 陸上競技を始めた中学生の頃から走ってきた「馴染みのある」スタジアムで“覚醒した姿”を披露した木梨。その進化はまだまだ止まらない。