「軽BEV」の発売は信頼度を高めるキラーコンテンツになる

 3番目は前置きで書いたようにBYDが懸命にディーラー網を拡張中。2025年までに全国100拠点という当初の目標達成は難しい状況だが、各都道府県にディーラーができるのも遠い未来のことではないだろう。

 数以上に重要なのはディーラーの質だ。筆者が長期滞在した郷里鹿児島はフォルクスワーゲン、アウディ、BMWミニ、ジャガー・ランドローバーなどの正規ディーラーを展開するフィデルという企業傘下のナカムラ自動車がBYDディーラーを運営している。

 昨年シールのロードテスト中に分からない事象が発生したのでそこを訪れたところ、対応した技術担当者の知識量の豊富さ、問題抽出・解決能力の高さに驚いた。聞けばそういう人材を広域からヘッドハントしてBYDディーラーを組織したのだという。

 その販売力のなせるワザか、鹿児島ではBYD車を結構見かける。産業道路という海岸近くの道路で信号待ちの時、テスト車と同じ白いボディカラーのシーライオン7が隣の車線に並んだ。筆者はこれまでBYD車を延べ1万5000kmほどロードテストしているが、まったく同型のクルマと接近遭遇したのは初めてだった。地域での営業力が強く、サービスの質も高いディーラーができれば、まったく売れないというわけではないのだ。

 日本参入から3年目ということもあって、ロードテストをしているとBYD車を見かける機会が少しずつ増えているが、濃度には地域差がかなりある。遭遇率が圧倒的に高いのは九州で、今回のテスト中も鹿児島に限らずちょこちょこ見かけた。次いで関東、東海。東北、山陰ではまだ1台も出会っていない。

 鹿児島では日産ディーラーに充電しに行った時、品川ナンバーのシールが店頭に停まっているのに遭遇した。BYD車の累計販売台数は今年7月にようやく5000台を超えたところで、絶対的な台数は極めて少ないが、それでもまったく見ることのないブランドではなくなりはじめているのも確かだ。

充電のために鹿児島日産宇宿店を訪れるとBYDシール(手前)が停まっていた。累計販売台数の増加とともに遭遇する機会も少しずつ増えている(筆者撮影)

 BYDにとって信用度を高めるキラーコンテンツになり得るのは、早ければ来年に発売される軽自動車だ。一般的には軽自動車はブランドイメージを高めるのにはあまり貢献しないが、BYDの場合は少々事情が異なる。

 今のBEVのリセールバリューの低さを押して500万円級のモデルに手が出る顧客は限られているが、軽BEVならお試しのためのハードルはぐっと下がる。BYD車の商品性の喧伝や耐久性を証明するための商材として大いに使えるのは間違いないだろう。あくまでそれで高評価を得られればの話だが。

 自動車産業の強い日本はただでさえ海外メーカーにとっては難攻不落の市場。その日本におけるBYDのビジネスはこれからも試行錯誤が当面続くと考えられる。後に続こうとしている吉利自動車もまた難しさは百も承知で、BYDの方策の成否を静かに見ていることだろう。

 果たして中国勢が日本で本格的に権勢を拡大できる日は来るか。

島根県浜田市の折居海岸にて。シーライオン7のフォルムは大変均整の取れたものだった(筆者撮影)