0%→100%の充電サイクル「4500回」耐久は本当か
このようにシーライオン7は弱点もあるものの、動的質感の作り込みをはじめクルマとしてのまとまりは大変良いものだった。
競合モデルとしては日産アリア、フォルクスワーゲン「ID.4」、ヒョンデ「アイオニック5」、テスラ「モデルY」などが挙がるが、ことコストパフォーマンスに関しては圧倒的なものがあった。
BYDは中国企業だが、実際に開発を行っているのは世界から招聘したエキスパートエンジニアを交えた多国籍チーム。CAE(コンピュータ支援設計)にAI(人工知能)も加わった今日においては、それで十分に高性能車を設計できるということを示した格好である。
これほどまでに商品力を上げたクルマを投入しているにもかかわらず、なぜBYDはブレイクできないのだろうか。
新参入ブランドにとって壁となるのは、第1に商品が魅力的であること。これがなければそもそも成功など望めない。だが、それだけで消費者が受け入れるほど甘くはない。
第2は耐久品質や安全性の証明。ただでさえBEVはその疑念の払拭に四苦八苦しているが、BYDは工業製品のイメージが決して高くない中国車ということで、その分さらにハードルが高い。
第3は修理などに迅速に対応してもらえるサービス。第4はそれらが揃って初めて高まるリセールバリュー。そして最後は中国という共産党専制国家に抱くマイナスイメージといったところである。
このうち第5は一企業がどうこうできる問題ではないので置いておくとして、まず第1についてはシーライオン7は十分にクリアしていると言える。長所短所はいろいろだが、少なくとも性能面や動的質感でシーライオン7を上回る同クラスのモデルはほとんどない。仮にこれをトヨタ自動車が出していたら喜んで買う顧客が続出するであろうレベルだ。
問題は第2から後だ。リン酸鉄リチウムイオン電池は正極の組成が強固で熱安定性にも優れるという特性を持っており、他の方式に比べて原理的に耐久性が高い。BYDはブレードバッテリーの容量が70%まで低下するのに要する0%→100%充電サイクルは4500回と喧伝している。
もしそれが本当ならシーライオン7の100%→0%の走行距離を500kmと少し辛めに見積もっても実に225万km相当。回生ブレーキによる充電を含めても200万kmは超える数値だ。
だが、重要なのは理論や謳い文句ではなく実際の使用でどうかということ。これは過酷な環境、使用条件で長期にわたって使い続けることでしか証明できない。
方法のひとつに走行距離が一般車よりはるかに多いタクシーで実証するという手がある。つい最近、筆者は東京東部の自宅近くのガソリンスタンドで黒のシーライオン7の個人タクシーを見かけた。これは面白いモデルケースのひとつになる。
シーライオン7(固体燃料ロケット「ミュー3S」の展示モックアップをバックに筆者撮影)