悪天候も苦にならない安定性と優れた充電受け入れ性

 ではレビューに入っていこう。シーライオン7はフェイスがセダンのシールと似ているため、シールのクロスオーバーのようなものと予想していたが、実際のドライブフィールはスポーツセダン然としたシールと大きく異なり、柔らかな乗り心地とおっとりとした動きが特徴。車内は広く、静粛性もハイレベル。まさにザ・クロスオーバーという感じのクルマだった。

フロントマスクはセダンモデルのシールとデザインの共通性が高い(筆者撮影)
車体側面にはBYD DESIGNのロゴ。デザインディレクターは欧州プレミアムカーも手がけたヴォルフガング・エッガー氏(筆者撮影)
テールランプは細密なテクスチャーを持つ。内外装とも細部にわたって入念にデザインされているという印象だった(筆者撮影)

 今回のロードテストでは頻々と悪天候に見舞われ、がけ崩れによる幹線道通行止めによる広域迂回、線状降水帯突破、弱い台風が襲来する中のドライブなど、BEVの苦手とする悪コンディションが実に多かった。

 だが、ひたすら安定性重視で外乱に強いというシーライオン7のチューニングはそんな逆境においては実に好都合で、外界の悪天候を涼し気に見ながら大船に乗った気でドライブをすることができるのは、何となしに気分の良いものだった。

 好天時はどうかというと、スポーツセダン然としていたシールのような機敏さとは無縁で、クルマの動きを積極的に制御して楽しむというタイプのクルマではない。ステアリングインフォメーションもシールに比べると希薄だ。

 だが、安定性自体は予想よりずっと良く、往路に箱根新道を走っていたとき、中腹から上の急カーブの連続を大して意識することもなく過ぎ、箱根峠に着いた時に「え、もう?」とちょっと驚いた。高速クルーズも得意で、新東名を最も速い流れに乗って走った時の直進性の良さは光るものを感じた。

新東名浜松サービスエリアで充電中(筆者撮影)

 そんな走行感を補強するのが充電パフォーマンスの安定性の高さだ。充電時の気温は最低が24度、最高が38度だったが、その範囲においては充電器のほうが猛暑で音を上げないかぎり、時間当たりの充電電力量はほぼ一定に保たれた。

 充電速度は日本のCHAdeMO急速充電器の中でも特にハイパワーな最大電流350アンペアの充電器を使用する場合は日産「アリアB9」に負けるが、すっかりメジャーになった最大電流200アンペアの充電器を使う場合は充電電圧の高さを追い風に大半のBEVを上回った。

 この充電の速さと安定性の両立は「ここで充電すれば300kmは走れる」といった読みがやりやすくなるという点で、BEVで長距離ドライブをするに当たって大変ありがたかった。

山口日産新下関店で充電中。シーライオンは充電電圧が高いため、200A充電器使用の場合で30分の投入電力量は多くの競合より15%ほど多い42kWh弱に達する(筆者撮影)

 電費(電力量消費率:エンジン車の燃費に相当)は2.2トンという重量級モデルゆえ、コンパクトBEVに比べると劣る。猛暑下の電費は流れの良い一般道で7km/kWh台、高速道路が6km/kWh台、新東名の優速巡航が5km/kWh前後という感じである。テスラのように高効率で走るというわけではなく、大容量バッテリーと良好な充電受け入れ性で強引に航続性能を稼いでいるという印象だった。

 だが、むやみに消費電力量が多いという感じでもなかった。それを実感したのは往路、九州豪雨の余波で中国自動車道が通行止め、関門トンネルが時速約800mという破滅的渋滞という状況の真っただ中に飛び込んだ時だ。いかにも裏道を熟知しているという迷いのない動きの地元車に追随することで10km以上に及ぶ車列のうちかなりをスルーできたが、そこからも5分に1度くらいしか進まない。

 並んだ時の充電率は21%。もしエアコンが電気を食って残量不足になったら脱落してどこかで充電しようと考えていたが、ほんの数km走るのに5時間あまりを費やしてトンネルの料金所をようやく通過したとき、バッテリーはまだ16%を残していた。消費電力量の推定値は4kWh台。1時間に1kWh以下というのはかなりの好スコアで、BYDの熱交換システムが有効に機能した形となった。

島根県益田市の海岸線にて。ロードホールディングは着実、操縦性は鷹揚という特性は長旅への適合性が高かった(筆者撮影)