電通抜きでどこまでできる?
産経新聞は大阪・関西万博で問題となった海外パビリオンの建設費未払い問題を検証した記事を9月10日付で掲載。トラブルが確認された約10館のうち、未払い金の請求額が最も大きいのが外資系イベント会社の日本法人で、同社から建設を請け負った国内業者のほとんどが中小で、国際間のビジネス経験がほとんどないことを指摘する。
大会中に見かけるスポンサー企業は、職員たちがコツコツと営業を重ねて開拓した(写真:アフロスポーツ)
電通は、東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件を受け、大阪府から新規に発注する業務への入札参加資格を24年2月に解除されるまでの1年間停止処分を受けていた。記事中では、過去の万博運営にも携わってきた電通は「何でも屋」としての役割を担ってきたとし、ある広告関係者の「電通社員はトラブルを想定し、未然に防ぐという思考で動く。彼らの撤退がなければ、未払い問題は防げたかもしれない」といった声を紹介している。
スポーツ界に再び話を戻すと、日本国内では11月に開幕する聴覚障がい者の国際スポーツ大会「デフリンピック」東京大会も広告代理店への委託を行わず、自前で協賛企業を募る。9月1日現在、トヨタ自動車やソフトバンクなどが大会全体を支援するトータルサポートメンバーが77社、特定競技のみを支援するゲームズサポートメンバーが27社集まっている。
一方、26年に名古屋で開催される夏季アジア大会では、朝日新聞の2月27日付記事によると協賛金集めに苦戦している。この大会は電通が談合事件を受けて候補企業の内定を辞退。地元の新東通信を代表とする4社が共同事業体を務める。
電通への過度な依存が、スポーツイベントを巡る不正の温床になったとはいえ、ガリバー企業である電通が培ってきた経験値やノウハウを代替することは容易ではない。世界陸上が協賛企業を集められたのは、大会が世界60カ国以上で放送され、10億人以上が視聴するとされる陸上競技そのものの人気も考慮に入れる必要がある。
東京という恵まれた開催立地も含め、今回の大会のように他の競技大会が同じ手法で成功できるとは限らない。協賛金を想定通りに集めることができなければ、公費による負担を強いられるリスクもある。協賛金集めという大会の根幹で起きた「地殻変動」の行く末が注目される。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。



