徹底したコンプライアンス体制
あるスポーツ関係者は「最近の選挙で、スポーツに関する政策実現や価値そのものをアピールする候補者を見かけなくなった。東京五輪・パラリンピックで国民のスポーツに対する嫌悪感が高まったことを、政治家が感じ取っている証拠だ」と声を潜める。
スポーツ庁は23年、利益相反の厳格な監視やマーケティング業務の透明化などを盛り込んだ大規模スポーツ大会運営の指針を策定した。世界陸上は、新たな指針を適用して迎える最初の国際大会となり、今後のスポーツイベントの「試金石」にもなる。
財団は、専任代理店契約を結ばないだけでなく、第三者審査委員会を設置したほか、コンプライアンス委員会や監査室も置いた。サンケイスポーツWeb版の23年7月4日付記事では、財団の武市敬事務総長が「ここまでのチェック体制を構築した組織はなかなかない」とコメントしている。
ただし、スポンサー集めは一筋縄ではいかなかったようだ。
電通などの大手の広告代理店は、多様な業界にコネクションやネットワークを張り巡らせる強みを持ち、交渉力にも長けている。一方の財団は当初、都や競技団体からの出向者で占められ、協賛金集めのための営業ノウハウや経験が乏しかった。朝日新聞によると、競技団体でマーケティングに関わった職員や、民間企業出身者らを直接雇用。手探りの状態から最終的には13社と契約に至った。
世界陸上のスポンサー公募は、協賛金によって3つのカテゴリーで集められた。
13社の内訳は、1社あたり3億円以上の「プリンシパルサポーター」に、近畿日本ツーリスト、東京メトロ、TBSテレビ、森ビルの4社、同1億円以上の「サポーター」には、ALSOK、近鉄エクスプレス販売、東京ガス、ぴあ、メディカル・コンシェルジュの5社、同3000万円以上で24年11月に大会PRなどの開催準備支援を目的に追加で新設した「サプライヤー」に朝日新聞社、LIVE BOARD、ニシ・スポーツ、REVO Internationalの4社が名前を連ねた。
開催経費は開幕が迫った8月、物価高騰などの影響から24億円上振れして174億円に修正された。それでも、支出増を協賛金・寄付金で10億円、チケット収入を14億円上積みして穴埋めができた。
陸上競技Webメディア「月陸Online」の8月13日付記事によれば、武市氏は協賛金集めについて、「計画し、希望的な部分は想定している金額の水準はクリアできました。特にプリンシパルサポーター、サポーターで相応の水準までいった」と評価している。
今回の大会でも、電通はマーケティング権と放送権を持ってはいるが・・・(写真:AP/アフロ)
一方で、電通は、世界陸上を主催する世界陸連と、全世界におけるマーケティング権およびインターネットを含む放送権(欧州放送連合地域における放送権は除く)に関して、29年までの長期契約を結んでいる。こうした背景もあり、IAAFの最上位のパートナー契約を結ぶ5社はアシックス、ホンダ、セイコー、ソニー、TDKとすべて日本企業が占め、メディア部門の契約を結んだTBSが連日、地上波中継を展開している。電通の存在感は今なお大きい。
世界陸上に限らず、スポーツ以外のメガイベントでも、「電通不在」の影響は小さくない。広告やマーケティング、運営面での悪影響が取り沙汰されている。