2025年9月13日から21日まで開催されている「東京2025世界陸上」。東京五輪・パラリンピックの反省を生かして運営スタイルがガラリと変わった(写真:アフロスポーツ)
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 (田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 東京・新国立競技場を舞台に、国内では2007年大阪大会以来となる18年ぶりの「世界陸上(陸上の世界選手権)」が開催されている。今回の世界陸上は、協賛企業(大会スポンサー)集めで従来型から激変した。国内最大手でスポーツ界に大きな影響力を持つ電通などに「専任代理店」を頼らないことが特徴だ。

 東京五輪・パラリンピックを巡る汚職・談合事件後、東京で初めて行われる大規模なスポーツの国際大会となった今回、運営する東京世界陸上財団は、自前での協賛金の公募へ舵を切った。スポーツ界に暗い影を落とした東京五輪・パラリンピックを教訓とし、運営に関する契約や経費のチェックも厳格化。「負のレガシー」を払拭させて大会を成功させたい考えだ。

尾を引く東京五輪の汚職・談合事件

 スポーツイベントの「カネ」に対する国民の監視の目は厳しくなっている。大会にいくらかかったかは大きな関心事となり、スポーツの醍醐味である「感動」という曖昧な言葉ではごまかせない。

 こうした中で、今回の世界陸上の開催経費は当初、150億円を想定した。日本陸連から支援要請を受けた東京都が60億円、国が20億円の公費を負担し、日本陸連は10億円を拠出する。残る60億円は協賛金(スポンサー収入)・寄付金と、チケット収入で各30億円を見込んだ。

 この中で従来と大きく異なるのは、大会ロゴの商業使用などが認められる協賛企業を集める手法だ。スポーツ界に強い影響力を持つ電通などの専任代理店の不在である。

 特に電通は、これまでも五輪やサッカー・ワールドカップ(W杯)などのビジネスに深く関わってきた。スポンサー選定を担当するマーケティング部門では、従来は運営主体に担当者が出向し、主導的な役割をはたした。

 そのことで、有力スポンサーの獲得につながってきたことも事実で、スポーツ界は、電通に限らず、広告代理店に一任することが慣例となってきた。それゆえに、世界陸上のようなメガイベントの協賛金集めを「電通抜き」「大手広告代理店抜き」で行うのは、まさに異例の選択肢だった。

 きっかけは、東京五輪・パラリンピックで発覚した汚職・談合事件だ。

 電通出身の大会組織委員会元理事が、スポンサー選定を巡って賄賂を受け取ったとされる。電通グループも、テスト大会や大会本番の運営業務を割り振った独占禁止法違反に問われた。東京五輪・パラリンピックの協賛金は過去最大規模の3761億円にのぼった一方、「電通依存」の代償は大きかった。国民の「五輪離れ」も加速し、招致実現が有力視されていた30年札幌冬季五輪も逆風下で断念へと追い込まれた。