「抜かずの宝刀」にしておくべきだったSWIFT遮断
唐鎌:トランプ政権下でにわかに高まった議論ですが、足元の変化についてはまだデータをもう少し見ないとはっきりとは言えません。ただ、長期的に各国の外貨準備の構成を見てきていますが、ドル比率の低下は続いています。
2000年代初頭には7割を超えていたのに、今は6割を切っています。どれか1つの通貨が突出するということにはならず、例えば、ドル、ユーロ、人民元の3極体制などに移行していく可能性はあるのではないでしょうか。
ウクライナ侵攻への制裁で、ロシアをSWIFTから外した時、「SWIFTは金融の核兵器。ロシア経済は終わった」とまで言われました。でも、現実にはロシア経済は相応の堅調さを維持できています。
もちろん、小さくない苦労があると思いますが、「SWIFTから外れても大丈夫だった」という事実を残してしまったのは西側の誤算でしょう。今後、グローバルサウスがドル離れにチャレンジすることも増えるでしょう。後悔先に立たずですが、SWIFT遮断は「抜かずの宝刀」にしておくべきでした。
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)会議は加盟国が10カ国にまで拡大していますが、中東諸国の加盟によって世界の原油生産の3〜4割を担っています。
原油取引がドル建てであることはドルの強さの大きな要因ですが、彼らが一部を人民元で取引しようとか、バスケット通貨で取引しようと言いだすことは十分に考えられます。それはドルの基軸通貨性に差し障りがある議論です。
──唐鎌さんは欧州の専門家でもありますが、アメリカを頼れなくなったEU(欧州連合)の戦略の大転換についても、本書で語っています。
唐鎌:EUはもうアメリカに頼れないと考えて、「欧州再軍備計画」として防衛費の拡大という歴史的決断をしました。ドイツが財政均衡主義を改めるというのも画期的です。財源が必要になるので、EU債の発行が増えていくでしょう。

EU共同債はパンデミック対応として初めて発行されました。まだまだ規模は小さいながら、米国債のように安全資産を供給していくことにもなります。何よりも、課題であった財政統合が進むことになります。EUは危機のたびに統合の度合いを深めて進化してきました。今回も、そうなると思います。
──円安進行につれて、2022年、24年と著作を送り出して今回は対談になりました。次のテーマは何でしょうか。
唐鎌:2022年に始まった円安局面に関し、構造的な議論を深め、ある程度市民権を得ることができたと感じています。今後はもっと歴史を振り返る作業をしなければならないと思っています。
例えば、円高時代も含めて、ニクソンショック、プラザ合意など国際情勢や政治と重ね合わせて「円の歴史」を整理することに興味があります。
先ほどお話に出たように、2012~13年に円の通貨としての性格は一変したと思っております。その経緯を整理したく思います。資料的価値のあるものにして、そうすることで、円の将来を見通したいと思っています。
【河野龍太郎編】「米国衰退のプロセスはローマ帝国滅亡と同じ、ネイションの再統合をあきらめた米国で次に起きること」に続く
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中
大崎 明子(おおさき・あきこ)
早稲田大学政治経済学部卒。一橋大学大学院(経営法務)修士。1985年4月から2022年12月まで東洋経済新報で記者・編集者、2019年からコラムニスト。1990年代以降主に金融機関や金融市場を取材、その後マクロ経済担当。専門誌『金融ビジネス』編集長時代に、サブプライムローン問題をいち早く取り上げた。2023年4月からフリーで執筆。



