6月5日、ステーブルコイン発行大手の米サークルがニューヨーク証券取引所に上場した。同社は「USDC」を運営する(写真:ロイター/アフロ)
(中島 厚志:エコノミスト)
暗号資産の一種である「ステーブルコイン」が物議を醸している。ステーブルコインとは、常に1ドルと同じ価値を保つよう設計された暗号資産「米ドル等価交換型ステーブルコイン」のことだ。
6月29日、国際決済銀行(BIS)がステーブルコインに否定的な論文を発表。一方、米国ではステーブルコインの健全な発展を促す法案がこの夏にも成立する見込みとなっている。実は、ステーブルコインをめぐって国家間の攻防が始まっている。
米国では6月17日、ステーブルコインの発行と流通を規制し、健全な発展を促すGENIUS法案が上院で可決された。この法案は、「USDT」や「USDC」などのステーブルコインによって米ドルの流通を一段と拡大し、デジタル時代にも米ドルが基軸通貨としての競争優位を維持する意図が示されている。早ければこの夏にも下院で可決され、成立する見込みだ。
この動きを牽制したのが、G7諸国を含む63の中央銀行および通貨当局が参加する国際決済銀行(BIS)だ。6月29日、BISはこのステーブルコインについて否定的な論文を発表した。
BIS論文では、中央銀行が発行するデジタル通貨(中央銀行デジタル通貨=CBDC)が次世代の貨幣・金融システムの中心であると明示する。一方、特に米ドルといった通貨と等価交換する仕組みを持つステーブルコインは通貨の要件を満たさないとし、民間デジタルマネー形態のステーブルコインが国の通貨類似のものであることを問題視する。
また、ステーブルコインの担保となる金融資産に急激な流出や価格変動などが生じると金融危機を招来させかねない点なども挙げ、ステーブルコインに極めて否定的な結論を示している。
これは的確な見方で、いずれも否定できない内容である。だからこそ、日本や欧州などBISに参加する多くの国の賛同を得られて、米国が推進するステーブルコインを敢えて封じるような論文が発表できたと推察される。
ステーブルコインに対して否定的なBIS見解と、ステーブルコインを後押しする米国の姿勢は、明らかに異なる。その背景には、単にステーブルコインの是非だけではない問題が透けて見える。それは、近い将来に実現すると見られているCBDCの下で米ドル覇権がどうなるかという問題である。
