
トランプ大統領が打ち出した相互関税。金融市場が動揺したことで90日間の停止となったが、予定通りであれば、7月上旬から発動される。欧州連合(EU)を含め、各国はその前にトランプ大統領と協議し、少しでもいい条件を得たいと望んでいるが、関税戦争の先に待つのは、むしろ各国のアメリカへの輸出の見直しではないだろうか。
トランプ関税と世界の秩序の行方について発信しているカナダのセント・トーマス大学国際関係・政治学教授 ショーン・ノラーイン氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──トランプ政権が、アメリカを孤立させ、西側諸国の結束を崩壊させることは悲劇だと思われがちですが、むしろ新しい、もしかしたらより良い世界秩序を作り出すかもしれないと発言されていますね。
ショーン・ノラーイン氏(以下、ノラーイン):ルールに基づいた国際秩序を取り戻し、欧米社会が築いてきた法に基づく世界を回復させる。それが多くの人にとっての利益だと考えられています。
ただ少し考えてみると、このような「かつてあった世界秩序」が真実ではないことは明白です。この秩序は、西洋が世界を植民地支配した時代に作られた世界観で、それが冷戦時代にアメリカに受け継がれ、やがて世界秩序のように考えられるようになったのですから。
欧米社会、とりわけ世界秩序の権化のようなアメリカは、自分たちの創ったルールを破ってきました。米ブラウン大学ワトソン国際関係研究所の調査によれば、アメリカの対テロ戦争によって、直接的に間接的に殺された人の数はこの20年間で、イスラム教圏でおよそ500万人です。
ガザの状況を見てください。多くの西側諸国はイスラエルの側に付き、不必要な殺戮を容認しています。グローバルサウスを含む西側ではない国々の考え方は無視され、西側諸国は、それ以外の国々を弱く貧乏にとどめる自分たちの秩序を維持してきました。
ポスト欧米秩序が今よりも絶対に良いものになるとは断言できませんが、欧米がこの支配的な体制を失うことは、支配されてきた国々にとっては良いことです。欧米は自分たちの良い時代を楽しみました。でも、それは終わりです。これは正しいことです。
──欧米の秩序が揺らぐ場合、中国とロシアの存在感が増すことに不安を覚える人は少なくないと思います。