
5月7日、テロ行為への報復としてインドがパキスタンをミサイル攻撃した。その後、両国は軍事行動を続けていたが、5月10日に停戦で合意。米トランプ大統領は「アメリカの仲介によって早期に停戦合意にこぎ着けた」とSNSで喜びを語った。「わずか4日の戦争だった」と軽視する声もあるが、国境線でにらみ合う2つの核保有国の緊張は高まり続けている。この問題に詳しいペンシルベニア大学国際関係学上級講師のファラー・ジャン氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──インドとパキスタンの衝突に関して、両国をなだめ、交渉の仲介を担ってきたアメリカの態度が変わってきたと問題視されています。
ファラー・ジャン氏(以下、ジャン):アメリカは両国が衝突すると、常に停戦交渉の仲介国としての役割を果たしてきました。ところが、5月10日に明らかになったのは、問題が深刻な状況になるまで、アメリカは両国の衝突の間に入らなくなったということです。
こうした状況に至る要因はいくつかあります。1つめは、アメリカにとって南アジアの戦略的な重要性が減っていること。冷戦時代は、ソ連とインドの連携に対抗するために、アメリカにとってパキスタンは重要な同盟国でした。
その後、2001年9月の米国同時多発テロを経て、再びパキスタンは対テロの重要な戦略的パートナーになり、アメリカはパキスタンの軍備増強を経済援助で後押ししました。
同時に、中国を牽制するために、アメリカはインドともパートナー関係を構築しました。こうした背景から、アメリカは両国の衝突をなだめる役になっていきました。
ところが、2021年5月にアメリカがアフガニスタンから撤退を表明すると、次第にアメリカは南アジアから疎遠になっていきました。加えて、ウクライナ戦争が始まり、ガザ戦争を起点としたイスラエルとアラブ諸国の衝突が再燃し、アメリカの外交努力はほとんどそちらに奪われました。
──アメリカの介入がうまくいった事例には、どのようなものがあるのでしょうか?