最新兵器のテスト場と化した南アジア
──核兵器以外でもインドとパキスタンは軍備増強を進めているのでしょうか?
ジャン:この点はとても深刻な問題です。兵器や攻撃のハイテク化はインドとパキスタンの対立を根底から変えていくと思います。紛争はもはや、カシミール問題の最初の50年間のように、実効支配線沿いでの軍事衝突だけにとどまらなくなっています。
2019年以降は、互いの領土への越境空爆が始まっています。パキスタンが所有する中国製J-10戦闘機が、フランスの最新鋭戦闘機ラファールを含む複数のインド機を撃墜しました。南アジアはまるでグローバルな最新兵器のテスト場になっています。
こうした闘いはサイバー領域にも拡大しており、「パキスタン・サイバーフォース」を名乗るハッカーが、インドの複数の防衛機関に侵入して、職員データやログイン認証情報が漏洩しました。
SNSも危険な言論空間になっています。インドの超国家主義的な人々がイスラム教徒やカシミール人に対する暴力を扇動し、パキスタンも同様に、反インド的言説がオンライン上で増加しています。
両国はドローンテクノロジーも使い始めています。インドはイスラエルからドローンシステムを購入し、パキスタンは中国とトルコのドローンテクノロジーで対抗しています。核保有国が、こうしたドローン機を使い合う時代に入ったのです。
こうした状況で米国という大きな仲介役を失うことは、状況を一層混沌とした予測不能なものにするでしょう。
ファラー・ジャン(Farah Jan)
政治学者
ペンシルベニア大学国際関係学上級講師
国家間の対立と同盟、核拡散の原因と結果、そして南アジアと中東の安全保障政策に焦点を当てた研究をしている。『Foreign Policy』、『Responsible Statecraft』、『The Diplomat』、『Arab News』、『Asraq Al-Awsat』、『Foreign Policy Journal』、『Democracy & Security』など、学術誌や政策関連の出版物に幅広く執筆している。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。