南アジアの仲介者になり得ない中国

ジャン:まだ第二次トランプ政権が始まった前半の段階ではありますが、ライバル関係にある核保有国が隣り合っている状況を考えると、この配置の遅れは異例の事態で、外交的にとても問題があると思います。

 アメリカはこれまで、サウジアラビア、インド、パキスタン、日本、中国などの国には早い段階で大使を配置していました。

 南アジア・中央アジア担当の国務次官補の存在もとても重要です。国務次官補は両国のテンションが高まり、危機が迫ったときに状況を管理することが重要な仕事になります。大使や国務次官補がいないということは、そのエリアを見る米政府の幹部レベルがいない、キーになる意思決定者がいない、危機状態に対応する専門家もいない、ということです。

 こうした扱いを見ても分かるように、南アジアはもはやワシントンのプライオリティーではなくなりました。5月の停戦合意に至るまでの混乱は、この不在がいかに深刻だったかを物語っています。

──アメリカがインドとパキスタンの仲介から抜けた分、中国が代わりを果たそうとしていますが、うまくいっていないとも指摘されています。

ジャン:中国はこの数年、世界中の国際紛争の仲介役を担おうとしています。2023年3月、イランとサウジアラビアは中国の仲介により外交関係正常化で合意しました。しかし、南アジアに関していえば、効果的な仲介役は果たせません。

 中国とパキスタンは同盟関係にありますが、中国とインドはライバル関係にあり、中国自身がインドとの国境線で衝突を抱えています。2022年にインド東端のアルナチャル・プラデシュ州タワン地区で両国の軍が衝突して負傷者が出ました。中国はインドとパキスタンの衝突において、効果的な仲介者にはなり得ないのです。