アメリカによるイスラエルへの制御力に疑念が挙がっている(提供:Avi Ohayon/Israel Gpo/ZUMA Press/アフロ)アメリカによるイスラエルへの制御力に疑念が挙がっている(提供:Avi Ohayon/Israel Gpo/ZUMA Press/アフロ)

 ハマスによる越境奇襲攻撃への反撃でガザを破壊しているイスラエルはパレスチナの領土制圧を進めるが、結果としてアブラハム合意で近づいたはずの他のアラブ諸国との間に決定的な溝を作り、攻めるほど孤立へと自らを追い込んでいる。

 新しい展開に入ったイスラエルとアラブの対立をどう見たらいいのか。『悪が勝つのか? ウクライナ、パレスチナ、そして世界の未来のために』(信山社)を上梓した法哲学者で東京大学名誉教授の井上達夫氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──井上先生は、アメリカやイスラエルがガザを復興するのではなく、過渡的な措置として、アラブ諸国によるアラブ平和維持部隊にガザの治安維持と住民保護を暫定的に委ね、腐敗堕落したパレスチナ自治政府を立て直すのが妥当だと主張されています。アラブのサウジアラビアやアラブ首長国連邦などの国々による連合ということですね?

井上達夫氏(以下、井上):そうです。そうした国々もまたハマスを嫌っています。サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、ガザ戦争終結とガザ復興に協力する用意はありますが、それはパレスチナ国家の樹立、すなわち二国家解決を目標として設定することが条件だとはっきり宣明しています。

 二国家解決を受容することは、イスラエルにとっても悪い話ではありません。イランを警戒するこれらのアラブ諸国との関係を改善して、対イラン安全保障体制を確保できるだけでなく、これらの豊かなアラブ諸国との交易を促進でき、ガザ復興への投資も期待できるなど大きな経済的メリットもあります。

 ところが、イスラエルの現状はとても二国家解決という雰囲気ではありません。NHKのドキュメンタリー番組も報じていましたが、二国家解決を訴えるイスラエル住民は、イスラエルの中で激しい批判の的にされています。

 国民ばかりではなく、アラブ人に対しても穏健派として知られるイスラエルのベニー・ガンツ前国防相は、以前ははっきりとイスラエルによるガザの直接統治を批判して、アラブ諸国と連携すべきだと主張していました。

 でも、そんな彼でさえ「ガザの戦争はハマスとの戦争ではなく、イスラム原理主義諸国がユダヤ人とユダヤ人国家を殲滅させようとする意図的な戦争なのだ」「これは自分たちの民族と国家をかけた実存の戦争だ」と主張し始めました。

 ガンツ前国防相がなぜこうした主張を始めたかというと、ガザ南部をイスラエルが制圧したときに、トンネルの中から見つかったPCにハマスの幹部たちの秘密会議のデータが残されており、イランとヒズボラが、ハマスの越境奇襲攻撃前から攻撃があることを知っているだけでなく、深く関わっていたことが明らかになったからです。

 イランとヒズボラは否定していますが、ニューヨークタイムズは検証して報じています。