ガザをアメリカが所有して起きるホラー

──このタイミングで、トランプ大統領は「ガザをアメリカが所有する」という、全く予想されていなかった考えを発表しました。

井上:全く生煮えの思い付きですね。当初は本当にガザの住民を追い出して、アメリカの所有地にするという考えだったようですが、焦ったマルコ・ルビオ米国務長官が「復興ができたらガザの住民には戻ってもらうという趣旨だ」と訂正しました。

 そのルビオ国務長官の意見に対して、再びトランプ大統領が「そうではない」と訂正しましたが、最近またトランプ大統領の主張が変わってきました。あの大統領は、一晩寝ると、前日言ったことを忘れてしまうのかと思いますね。

 いずれにせよ、ガザをアメリカが統治などしたら、アメリカは復興のコストを背負わなければならなくなります。

──それに、アメリカに統治などされたらアラブ系住民たちの怒りは、それこそ爆発しますね。

井上:ゲリラ戦争になり、アメリカが新たな戦争に巻き込まれてしまいます。それこそトランプ大統領が最も恐れる展開になるでしょう。(了)

井上達夫(いのうえ・たつお)
法哲学者
1954年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業後、東京大学助手、千葉大学助教授を経て、1991年東京大学大学院法学政治学研究科助教授、1995年より2020年3月まで同教授。現在、東京大学名誉教授。本書以外の主な著作に、『法という企て』(東京大学出版会、2003年、和辻哲郎文化賞受賞)、『現代の貧困――リベラリズムの日本社会論』(岩波現代文庫、2011年)、『世界正義論』(筑摩選書、2012年)、『自由の秩序――リベラリズムの法哲学講義』(岩波現代文庫、2017年)、『立憲主義という企て』(東京大学出版会、2019年)、『普遍の再生――リベラリズムの現代世界論』(岩波現代文庫、2019年)、『生ける世界の法と哲学――ある反時代的精神の履歴書』(信山社、2020年)、『増補新装版 共生の作法――会話としての正義』(勁草書房、2021年)、『増補新装版 他者への自由――公共性の哲学としてのリベラリズム』(勁草書房、2021年)など。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。