したたかに外交適正化を挙げるイラン

──米大統領選では民主党の候補者だったカマラ・ハリス氏も、パレスチナ・イスラエル問題に関しては態度を決めかねていました。

井上:こうした状況下で、新たな動きがイランから始まっています。イランは軍事的な戦いではイスラエルに負けましたが、中東世界におけるイスラエルとアメリカの信用失墜を好機として、外交による反撃に出ています。穏健派の大統領が非公式の外交交渉を進めています。

 かつて穏健派のアラブ諸国は、あまりにも強硬な姿勢だったイランのライースィー政権を相手にしませんでしたが、新しいマスウード・ペゼシュキアン大統領には交渉の余地があると見ています。

積極的な外交交渉を進めているマスウード・ペゼシュキアン大統領(写真:AP/アフロ)積極的な外交交渉を進めているマスウード・ペゼシュキアン大統領(写真:AP/アフロ)

 イランはトルコやエチオピアにまで訪問して、イスラム世界全体の平和と秩序を、いかにイスラエルとアメリカが破壊しているかという認識の共有を図っています。

 第一次トランプ政権は、2018年5月にイランとの核合意から離脱しましたが、十分検証可能な核開発の停止という要求にイランが応じるならば、交渉を再開する用意があると第二次トランプ政権は考えています。

 経済的苦境にあるイランも、経済制裁を解除してもらうためにアメリカとの関係改善を図る方向で準備を進めています。イランは今、このような外交的イニシアチブを積極的に取っているのです。

 これに対して、イスラエルのネタニヤフ首相は民間被害を拡大し続ける軍事的専横化で、国際社会の非難を高め、中東世界でも孤立しつつあります。かつてアブラハム合意でイスラエルに歩調を合わせようとしたアラブ諸国までもが、ネタニヤフ政権を見放しています。このままでは、イスラエルはイランに対し、軍事で勝って外交で負けるかもしれません。