中国の野望をどう考えるべきか?

ノラーイン:ロシアの人口はわずか1億4400万人で、経済規模はEUの6分の1程度です。しかも、あれだけの損失を被ってウクライナに総攻撃をしかけたのに、制圧することもできません。このような国が、かつてソ連が夢見たように世界を支配するような拡張を目指すなど不可能です。

 北大西洋条約機構(NATO)が本当に自衛を目的とする組織だと考えることも疑わしいと思います。NATOは2011年3月から10月にかけてリビアを空爆しました。こうした行為が、ロシアおよび世界に畏怖の念を与えている可能性も考えなければなりません。

 欧米社会はおよそ100年にわたり、世界中を暴力で脅し続けてきました。少なくともこの20年、最も暴力的だったのはアメリカを中心とした欧米です。怖がるなというほうが無理な話です。

 では、中国はどうでしょうか。確かにパワフルな存在ですが、西側に成り代わって世界を支配したいと考えるでしょうか。私は現時点ではそうした願望を示す証拠を十分に持っているとは感じていません。

 世界各地にアメリカが配置した米軍基地の数はおよそ800。対して中国が自国の外に持った基地の数はわずか2つです。中国は間違いなく、世界中と経済的な関係を結ぶことに尽力してきました。120以上の国と貿易をしていると言われていますが、軍事力で世界を支配しているわけではありません。

 中国は経済と政治の世界で存在感を増しており、上手くやっていることは間違いありません。しかし、それは世界で1位、2位を争う巨大な人口を抱えているから可能なことでもあります。

 私は中国が全く危険ではないとは言いません。軍備増強も進めています。近隣諸国が不安に思うのは当然のことです。ただ、冷戦後アメリカが世界を暴力で脅かしながら支配したことと同じことをしようとしているとは、現状ではとても思えません。

──トランプ関税の反動で、世界の貿易はアメリカから大きく中国に取引先を切り替える可能性があると思います。中国に近い国ほど、そうなっていくのではないでしょうか?

ノラーイン:世界中の国々からすると、「選択できる」「バランスが取れる」ということが良いことなのです。多くのアジアの国々は中国に対して畏怖の念を持っています。実際に、中国は近隣の国々と国境線をめぐる係争をいくつも抱えています。

 ただ、アジアの国々からしたら、どんなに中国と決別を宣言しても、中国はすぐ隣にあるのです。太平洋の向こう側にあるアメリカとは事情が違います。ですから、自国の利益を考えて、アメリカと組んだり中国と組んだり、テーマごとに臨機応変に対応したいと考えるでしょう。

 さらにグローバルなレベルでは、もう少し認識は変わります。多くの国は中国をそれほど危険な存在とは考えていません。なぜなら、中国はアメリカとは違い、中東やアフリカ、南米に軍事介入していないからです。