この経験は、イランが「外国からの核燃料供給は信頼できない」と主張する根拠となり、国内での濃縮能力の維持を強調する理由の一つとなったのです。

核の平和利用に関心を有する中東の国々

 もし、今回の交渉において、イランがIAEAによる厳格な管理を受ける形で、イラン国内を含め何らかのコンソーシアムを創設することを受け入れ、米国がこれを認めるのであれば、核交渉は大きな進展を見せるかもしれません。

 実は、中東地域に濃縮ウランを供給するコンソーシアムが作られるのであれば、関心を示す国々はイラン以外にいくつかあります。すでに原子力発電所を保有しているトルコやUAE(アラブ首長国連邦)は、いずれもロシアやフランスなどの国外から燃料供給を受けています。

 そして、先月、トランプ大統領が訪問したサウジアラビアも原子力発電に強い関心を有しています。イランとの緊張関係にデタントをもたらし、同時に、濃縮ウラン供給が実現するのであれば、これらの中東諸国にとっても一石二鳥でしょう。

 特に、サウジアラビアは、2032年までに最大17GWの原子力発電能力を持つことを目指しており、最初の原子力発電所の建設が進められています。国内でのウラン資源の調査も行われており、将来的には自国でウラン濃縮能力を持つことを目指しています。同時に、このサウジアラビアの原子力プログラムは、イランとの関係が緊張している中で、これまでサウジアラビアが核兵器を持つ可能性についての懸念が高まっていました。

 今回、もともとイラン側から提案されたとされるコンソーシアムのアイデアについては、中東地域における核の拡散懸念に対する実効的な歯止めを提供し得る可能性があります。この点で、サウジのムハンマド皇太子は、弟のハーリド国防大臣を自らのメッセンジャーとしてハメネイ最高指導者に派遣し、サウジも地域の平和と安全を願っているとのメッセージをイランに送っていることには、より注目しておいても良いでしょう。5月のリヤドでの投資フォーラムでも明らかとなったように、トランプ大統領が「大好き」なムハンマド皇太子が、イランとの交渉でも改めて大きな役割を担うかもしれないのですから。