交渉が頓挫すれば、二つの深刻な事態が生じます。すなわち、軍事攻撃と徹底的な経済制裁です。

 第一に米国の理解と協力を得た上で、イスラエルがイランの核施設を攻撃する可能性が高まります。第二に、10月を期限とするJCPOAのスナップバック条項が稼働し、イランに対する国連の制裁が全面的に適用されることになります。いずれにせよ、イランは核開発の計画は当面頓挫するとともに、一層の経済的な打撃が体制を襲います。筆者は、日本に留学してきているイラン人の若者たちと最近も話をしましたが、彼らによれば、とりわけイランの地方における経済的な疲弊は相当厳しい状況にあるようです。制裁が解除されなければ、このままだと地方では貧困層が50%を超える可能性すらあると言います。

 無論、ロシアや中国などの助けを得つつ、イランは体制の生き残りを模索するでしょうが、今回ばかりはイスラム革命政権そのものに対して、相当厳しい状況が訪れることは覚悟せざるを得ないでしょう。その保守派体制の中でもイラン外務省を含めイランの穏健派たちは、そうした厳しい可能性を、強硬派に対する一つの梃子(てこ)として、交渉の継続を願っているはずです。

 そうなると、いくらハメネイ最高指導者を筆頭とする強硬派のイランの革命防衛隊幹部たちでも、少なくとも粘り腰で交渉を継続することに反対するのが愚かであることぐらいはすぐに分かるはずです。

交渉は乗るか反るかの瀬戸際に

 実際、イランから6月15日の日曜日に第6回の交渉がオマーンで開かれるとの発表が早速行われました。米国提案を否定しつつも、間髪を入れず、交渉継続の発表をイランが米国に先んじて行ったことには大きな意味があります。

 一方、米国では、この週末の日曜日(6月8日)にキャンプデイヴィッドに主要な閣僚を緊急に集めて、トランプ大統領がイランとの交渉やガザ情勢について会合を開催しました。その結論は分かりませんが、翌9日には、トランプ大統領がネタニヤフ首相に早速電話をしているのです。その後、行われた記者会見では、トランプ大統領から6月12日にイラン側と話をすることになっていると言及されています。アラグチ外相が会議のために訪問予定のオスロでも交渉が行われる可能性があるということでしょう。

 トランプ大統領は、「我々はイランとディールに達したい。しかし、時より彼らは手強すぎる。これが問題だ。我々は破壊や死ではなく、ディールを求めている。(ハメネイ最高指導者に)伝えている。(交渉が)うまくいくことを願っている。しかし、ひょっとするとうまくいかないかもしれない。すぐに分かるだろう。」とグレイな表現で交渉状況を描写しています。

 現在、ウィーンで開催されているIAEA理事会において、本日6月11日にも米英仏独が提出している、核査察に非協力的なイランを非難する決議案が提出されることが予想されています。査察が不十分にしか行われない中で、イランが60%に達する高濃縮ウランを推定408.6キロ(すなわち核爆弾9個分)も保有するに及んでいる以上、当然の動きといって良いものです。