トランプ大統領は「イランには核能力を持たせない」と言い続けてきましたが、今回のウィトコフ特使の提案が明確にしたのは、以下のようなことのようです。
「米国は、イランが自らウラン濃縮を行うことは一切認めない。
イランは、既存のウラン濃縮や再処理施設すべてを廃棄すべし。遠心分離機の開発や研究も停止する。追加議定書を認めることに加え、IAEAによる監視と査察のシステムを構築する。
代わりに、何らかのコンソーシアムを作って、IAEAなどによる厳格な管理の下で外部からイランに低濃縮ウランを供給させることについては検討し得る」
この提案であれば、イランやその他の国に平等にある平和的な核利用の権利は満たされるし、米国が脱退したJCPOAでは認められていた核濃縮能力をイランから奪うことができるというわけです。これならば、イラン核施設を根こそぎ破壊したいイスラエルの高い要求もギリギリ満たせるのではないかという米側の配慮なのでしょう。おまけに、イランが求めてきている制裁の解除要求には何ら言及していないというのですから。
ハメネイ師の言葉が意味したもの
しかるに、ハメネイ師の言葉は、イランの核濃縮能力に焦点を定めた、このウィトコフ特使の提案を完全に却下するものでした。
イランの最高指導者が、米国の提案を受け入れられないと言うのならば、もうイランは交渉への参加はやめると言ってしまえばよいではありませんか。ハメネイ最高指導者はそのようなことは一言も言いませんでした。そうなのです。アラグチ外相も、「濃縮なければ、ディールはない」(No enrichment, no deal)と気炎を上げつつも、近日中にアメリカに対して返事を返すと言ったのです。
これが示すのは、皆さんの想像とおり、ハメネイ最高指導者は、交渉を中断せよとはアラグチ外相に命令していなかったということに他なりません。イランの外交は実に懐が深いのです。ひょっとするとハメネイ師の強い主張は、アメリカ向けというよりは、イラン国内の強硬派向けの懐柔策であったのかもしれません。なにしろ、今回の交渉が停止し、破談となれば、その帰結はイランにとっても極めて明白だからです。