保守との対立激化で再び「反日」に着火

 李大統領の今回の得票率は、3年前の大統領選挙よりも2%ほど上昇した。対抗馬の政党が「非常戒厳宣布」により国民から大顰蹙(ひんしゅく)を買っていたにもかかわらず、得票率の伸びは思ったほどではなかった。本来なら、過半数は優に超えてしかるべきだったのだろう。そうならなかった背景には、もちろん、李大統領の司法リスクがある。

 ところが就任の翌日、政府による司法府への介入が可能になる検事懲戒法が国会で可決された。これにより、検事総長のみならず、法務部長官までも検事の懲戒を直接請求できるようになる。

 この法律で懸念されるのが、政府の意にそぐわない検事の懲戒が行われる点だ。そうなると、検察は政府や大統領への捜査がしづらくなる。

 だが、世論調査によれば、李大統領が抱える裁判を継続すべきと回答した人の割合は63.9%に及んでおり、所属政党である共に民主党の支持者でも42.7%と、決して低くはない。もしも今後、李大統領が司法リスクを回避する方向に動けば、社会の統合どころか、李政権の支持派と不支持派との間で対立が深まるだろう。

 そのときには不支持派の中心に立つであろう保守陣営に対し、李政権は攻撃の手を緩めない。となれば、尹政権の実績もやり玉にあげられ、その火の粉が日韓関係にも降り注いでくる可能性がある。

 静かな対日政策で幕を開けた李在明政権だが、政権運営でつまずけば、また以前のように対日強硬姿勢をあらわにする可能性がある。そこには理念などなく、ポピュリズムに根差した反日で、かえってたちが悪いだろう。しかも東アジア地域の安定を揺るがしかねないコリア・リスクも孕んでいる。李政権の対日政策は、まさに張りぼての建物だ。願わくば、それが安全基準を満たす強固な建築物になってほしいものなのだが。

平井 敏晴(ひらい・としはる)
1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。