2022年2月17日、北京オリンピック・フィギュアスケート女子フリーの演技をするロシアのカミラ・ワリエワ(写真:新華社/共同通信イメージズ)
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 来年(2026年)2月のミラノ・コルティナ五輪を控え、盛り上がりを見せるフィギュアスケート競技。この五輪には、ウクライナ侵攻以降、国際大会から除外されてきたロシアの選手も出場する。ISU(国際スケート連盟)が、男女の個人競技のみ一人ずつ、「個人資格の中立選手(AIN)」として出場を認めたのだ。

 ロシアの選手が国際大会から除外される前、女子フィギュアスケートは、4回転を跳ぶロシア選手勢の独壇場だった。そのロシアが戻ってくるとあって、注目が集まることは間違いないだろう。

 振り返れば2022年2月、ウクライナ侵攻直前に行われた北京オリンピックの女子フィギュアは、金・銀・銅をロシア勢が独占するとまで言われていた。しかし、大会期間中に衝撃の事件が起きる。世界最高得点を持つ金メダル候補、カミラ・ワリエワのドーピング疑惑である*1。世界中の疑惑の目が、15歳(当時)の天才少女に注がれた。ワリエワは北京五輪への出場は認められたものの4位に終わり、その後、4年間の資格停止処分が下されている。

*1:2021年12月のロシア選手権での検査で、ワリエワの検体から禁止薬物の心臓病の治療などに使われる薬「トリメタジジン」が検出されたことが、北京五輪中に判明した

 ドーピング事件、ウクライナ侵攻……この間、フィギュアスケート大国・ロシアでは何が起きていたのか。NHKの番組*2をもとにした書籍『栄冠と絶望のリンク ロシアの天才スケーター カミラ・ワリエワの宿命』(講談社)は、ドーピング事件の真相に迫るとともに、ベールに包まれたロシア・フィギュアスケートの強さの秘密と、その特異性を明らかにしている。

*2:NHKスペシャル「“絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」およびBSスペシャル「ロシアのアスリートの宿命~女子フィギュア・ワリエワ」

 長年フィギュアスケートを取材してきた著者の二人、NHK報道局・ディレクターの河西大樹氏と、NHK札幌放送局・記者の今野朋寿氏に話を聞いた。ロシア・フィギュアスケートの光と影について。スポーツと政治について。そして、ミラノ・コルティナ五輪の展望について、前後編でお届けする。