強くなれるが期待に沿わない選手は淘汰される「残酷なシステム」

──裁判記録を読むと、ワリエワの証言は少しずつ変わっています。そうした点への感じ方は、読み手によって異なるかもしれません。一つポイントとなるのは、ワリエワの過失をあいまいにしてきたロシア・アンチドーピング機構が、ある時に態度を変えたことです。その後、スポーツ仲裁裁判所による調査が進められ、最終的に4年間の資格停止という重い裁定が下ることになりました。ロシア・アンチドーピング機構の変化を「潮目が変わった」と表現されていますが、何が起きたのでしょうか?

今野 そこはどう書くべきか、非常に悩んだ箇所です。ドーピング違反が発覚して以降、ロシア勢としてはワリエワ擁護の姿勢をとってきたのですが、擁護していても勝ち目がないという状況になったときにどう収めるか……。表現が難しいですが、ごく単純に言えばワリエワを切り離すというか、突き放すというか。そういった判断をしたのではないか、とわれわれには見えるところがありました。

河西 この件に限らず、取材全体から言えることですが、ロシアのアスリートのまさに「宿命」というものを感じました。ロシアで育てられるから強くなるけれども、期待に沿えない人は淘汰されていく。

 ワリエワの処分について、ロシア・スケート連盟の方やコーチのエテリさんは、私は関係ない、私は知らないという態度をとっていました。われわれの感覚からすると守ってあげてほしいと思うのですが、非常に残酷なシステムが現実としてあることを感じました。

今野 付け加えておくと、いったん結論は出ましたが、世界アンチドーピング機構の事務総長(オリビエ・ニグリ氏)は、「15歳の少女が単独でドーピング違反を犯したわけではないことは明らか」だと語っていて、「誰が彼女にその禁止薬物を提供したかを突き止めなければいけない」とわれわれのインタビューに答えています。今後も調査をしていくということを話してくれました。

──4年間試合には出られなくなったものの、ワリエワは、フィギュアスケートを続けていますよね?

河西 ワリエワの停止期間があけるのは2025年12月で、最近、競技への復帰報道が出ていましたね。平昌五輪で金メダルをとったアリーナ・ザギトワのように、ロシア女子は若くして成功すると、10代のうちに第一線から退く選手が多かったのですが、幸か不幸かエリートコースから外れたことでワリエワはスケートを続けている。復帰後にどのようなスケートをみせるのか興味はあります。