2022年2月17日、北京オリンピック・フィギュアスケート女子フリーで演技するロシアのカミラ・ワリエワ(写真:共同通信社)
来年(2026年)2月のミラノ・コルティナ五輪を前に盛り上がりをみせるフィギュアスケート競技だが、4年前の北京五輪以降、フィギュアは「競技外」で騒がれることが多かった。
北京五輪中に、金メダル候補だったロシア女子のカミラ・ワリエワ選手のドーピング違反が判明し、五輪直後にロシアがウクライナへ侵攻する。この後、フィギュアスケート大国・ロシアは国際大会から除外され、姿を消した。
そのロシアが、ミラノ・コルティナ五輪に戻ってくる。ISU(国際スケート連盟)が男女の個人競技のみ一人ずつ、「個人資格の中立選手(AIN)」として出場を認めたのだ。
この4年間、ロシアで何が起きていたのか。NHKの番組*1をもとにした書籍『栄冠と絶望のリンク ロシアの天才スケーター カミラ・ワリエワの宿命』(講談社)の刊行を機に、著者の河西大樹氏(NHK報道局・ディレクター)と今野朋寿氏(NHK札幌放送局・記者)に話を聞いた。
*1:NHKスペシャル「“絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」およびBSスペシャル「ロシアのアスリートの宿命~女子フィギュア・ワリエワ」
NHK取材班は戦時下のモスクワに入り、ワリエワやコーチらに長期取材を敢行した。ドーピング事件やロシア・フィギュアスケートの実態について聞いた【前編】に続き、【後編】をお届けする。2人が見た、次期五輪に出場予定のロシア選手の展望について。そして日本のフィギュアスケートの現状と未来について。
【前編】五輪で復活するフィギュアスケート大国・ロシア NHK取材班が見た「エリート養成システム」とは?
ロシアのカミラ・ワリエワ(©Ulrik Pedersen/CSM via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
五輪出場が決定したロシア・ペトロシャンの強さと不安要素
──来年のミラノ・コルティナ五輪の女子フィギュアスケートでは、個人資格の中立選手(AIN)として、ロシアのアデリア・ペトロシャン(18)が出場枠を手にしました。河西さんは、ロシア取材で彼女を直接見ています。日本勢の強力なライバルとなりそうですか。
河西大樹氏(以下敬称略) ペトロシャンは若くて小柄で、一般論として理想的な4回転ジャンパーだと思います。私がモスクワで取材したときは、4回転フリップも4回転トーループも軽々と跳んでいました。
ただ、9月に行われた五輪出場枠を獲得するための大会(北京)では、真相は分かりませんが、ケガの影響もあるということで4回転は跳んでいませんでしたし、現状がどうかは分かりません。ミラノ・コルティナ五輪でどこまで4回転を跳んでくるかは、見どころの一つになると思います。
2024年12月21日、ロシア選手権の女子フリーで演技するアデリア・ペトロシャン(写真:タス=共同通信社)
ただ、ペトロシャンにとって課題になるのは「技術点」よりも、「演技構成点」だと思います。フィギュアスケートにはジャンプやスピンなど技の出来を評価する「技術点」と、プログラム全体の完成度を示す「演技構成点」があるのですが、後者の方は、試合に出てジャッジの評価を積み上げていくという側面があります。
国際大会に出ていないペトロシャンに、いきなり驚くような高い演技構成点が出るのは難しいのではないか。実際、先の大会(北京)では演技構成点は伸び悩みました。そういう点で、甘くない大会になると予想されます。
もう一つは、ロシア女子の金メダルの期待を一身に背負うことになるわけで……、これはもう、大変なプレッシャーだろうと思います。
