日本のフィギュアスケート人気の現状と、ミラノ五輪の金メダル候補

──ロシア勢と戦うことになる日本のフィギュアスケートについてお聞きします。高橋大輔さん、浅田真央さん、羽生結弦さん、宇野昌磨さん……と、スター選手が続いた時期を経て、フィギュアスケート競技の人気は成熟期に入っていると感じます。ただ、グランプリシリーズが深夜に放送されるようになるなど人気低迷がささやかれたりもしますが、どう感じていますか。

河西 フィギュアスケートはこれまで、シンボルアスリートが多い競技でした。競技の枠を超えて、国民的な人気を誇る選手が続いてきたということです。

 ただ、これは選手たち本人の価値に加えて、時代の潮流によるところがあると思うんですね。メディアが選手を積極的に取り上げる時代もあれば、選手のプライバシーや練習環境を守りましょうという時代もあって、最近は後者に寄っている気がします。

 次の五輪では、女子でいえばこの4年間、最前線で結果を出し続けてきた坂本花織選手は当然金メダル候補でしょう。今シーズン好調の千葉百音選手や中井亜美選手など、その他の日本選手も十分に表彰台の可能性があると思います。日本の女子スケーターの強さ、層の厚さは間違いなく世界に誇れるレベルにあります。

フィギュアスケートNHK杯の女子で優勝した坂本花織。グランプリ(GP)シリーズ通算9勝目を挙げた(2025年11月8日、写真:共同通信社)
2025年11月1日、グランプリ(GP)シリーズ第3戦スケートカナダ・女子シングルで優勝した千葉百音(写真:共同通信社)
2025年11月1日、グランプリ(GP)シリーズ第3戦スケートカナダ・女子フリーで演技する中井亜美。GPデビュー戦のフランス大会では初優勝を飾った(写真:共同通信社)

 日本以外では、女子ではアメリカのアンバー・グレンやアリサ・リウ、大舞台に強いベルギーのルナ・ヘンドリックスらがいます。

 それから、スケートファン以外はまだ知らない方もいるかもしれない「ペア」競技も大注目です。日本がこれまで高い壁に阻まれてきた「ペア」で世界の頂点に上りつめた「りくりゅう(三浦璃来、木原龍一)」は、2人ともキャラクターが素敵ですし、ペア競技はアクロバティックで見ていてハラハラする面白さもあります。何より2人で金メダルをつかみにいくというエモーショナルな物語がある。次の五輪で、フィギュアスケートファン以外にも、愛される国民的アスリートになる可能性が高いと思っています。

グランプリ(GP)シリーズ第5戦スケートアメリカ。ペアのフリースケーティング(FS)で優勝を飾った“りくりゅう”こと三浦璃来&木原龍一組(写真:共同通信社)

──普段、テレビ番組を作られているお二人が、書籍を執筆されました。この本を通じて読者にどんなメッセージを伝えたいですか。

今野 テレビ番組は、何年もかけて膨大な取材をしても、番組ではその一部、10%も出せません。一部を凝縮して出すわけですが、この本には、取材したすべてを詰め込むことができました。

「初出し」情報もたくさんあるので、多くの方に手に取っていただいて、真実とは何か、オリンピックとは何かなどを考えてもらえたら嬉しいです。

河西 この本も、それから番組でも、読者や視聴者の方をできるだけ誘導しないようにと心がけました。本を読んでワリエワをかわいそうだと思う方もいれば、振り回された日本の選手がかわいそうだと感じる人もいると思います。そのどちらもが正解だと思います。

 モヤモヤする部分を含めてフィギュアスケートやオリンピックについて、もう少し大きく言えばスポーツと政治、スポーツと戦争などを考えるきっかけにしてもらえたらと願っています。

【河西大樹(かさい だいき)】
NHK報道局・ディレクター。1989年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、2014年NHK入局。医療、経済、社会問題、スポーツなどの分野で番組制作を担当。これまでに制作した主な番組は、NHKスペシャル「“絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」「王者のジャンプ~フィギュアスケート男子~」「景気回復vsインフレ」「パンデミック 激動の世界(3)停滞か変革か 岐路に立つグローバル資本主義」「苦境の世界経済 日本再生の道は」、BSスペシャル「ロシアのアスリートの宿命~女子フィギュア・ワリエワ~」、クローズアップ現代+「コロナ禍マネー最前線・世界の超富裕層はどう運用」「スマホマネー革命」「東証10連休“令和マネー”はどう動く?」「“トランプ発”貿易戦争の衝撃」など。入局以来10年以上にわたりフィギュアスケートを取材し、宇野昌磨選手、坂本花織選手、「りくりゅうペア」の密着ドキュメンタリーなども多数制作。

【今野朋寿(こんの ともひさ)】
NHK札幌放送局・記者。1987年生まれ、札幌市出身。中央大学卒業後、2011年NHK入局。岡山放送局、大阪放送局(スポーツ担当)、スポーツニュース部を経て現所属。スポーツニュース部では主にアマチュア競技を担当し、オリンピックは2021年東京大会、2022年北京大会、2024年パリ大会を現地取材。主な担当番組に、NHKスペシャル「王者のジャンプ~フィギュアスケート男子~」「“絶望”と呼ばれた少女 ロシア・フィギュア ワリエワの告白」、BSスペシャル「シェイリン・ボーンのメッセージ フィギュアスケート 魂の振付師」、スポーツ×ヒューマン「殻をやぶるなら、いま フィギュアスケート 鍵山優真」「まっすぐ、心と向き合って~フィギュアスケート・鍵山優真~」などがある。

『栄冠と絶望のリンク ロシアの天才スケーター カミラ・ワリエワの宿命』(河西大樹・今野朋寿著、講談社)