ウクライナ侵攻が終結していない中でロシア選手が五輪出場する是非

──そもそも、国際大会から除外されてきたロシアの選手が、ウクライナ侵攻が終結していないにもかかわらず、次の五輪に出場できると決まったことに首をかしげる人も多いと思います。しかも、男女一人ずつで、ペアとフリーは出場できないという決定にも違和感を覚えます。長くフィギュアスケートを取材してきたお二人は、どのように感じていますか。

河西 個人的には、ロシアの選手の演技を見たいです。ロシアならではの技術力の高さ、バレエの基礎に裏打ちされた柔軟で美しい演技を見たいですし、ハイレベルな彼女たちと、坂本花織選手をはじめとする日本選手が競うのも見たい。

 そういう意味で、「スポーツと政治は切り離すべき」という考えが私にはあります。ロシアの選手たちに戦争の責任があるかといえば、それは判断が難しいですから、一生懸命頑張っている選手たちにスケートをさせてあげたいと思う気持ちもあります。

 同時に、われわれはウクライナの選手にも取材しています。侵攻によって日常を奪われ、自分や家族が脅威にさらされている人たちの苦しみを知ると、ロシアの選手に戻ってきてほしいとは言えなくなってしまいました。被害を受けている人のことを考えると、「スポーツと政治を簡単に切り離すことはできない」というのもまた、自分の考えとしてあるんです。

 ですから、やはり解決してほしいです。その上で、国際舞台に戻ってきてほしい。戦争やドーピングがスポーツの価値を毀損するのは明らかです。

今野朋寿氏(以下敬称略) 私はパリ五輪を現地で取材したのですが、競技によってはロシアの選手が出ていました。出場している選手たちは純粋に頑張っていても、政治と切り離されたクリーンな状態で競技ができるかといえば難しいと、この時感じましたね。

 ウクライナの選手は、メディアに向けて必ず抗議の言葉を発します。つまり、どうしてもスポーツ以外の要素が持ち込まれるわけです。また見る側も、純粋な気持ちでロシア選手を応援できるかといえば難しいだろうと思います。

 個人的な思いとしては、河西と同じく、ロシア選手の演技は見てみたいですし、出場することが決まった以上、ロシアの選手にはメダルを目指して頑張ってもらいたいとは思っていますが。

河西 私としては、オリンピックは4年に一度の祭典ですから、4年間頑張ってきた成果を披露する場でもあると思っています。となると、国際大会に出ていない選手がいきなりオリンピックに出て、例えば金メダルをとったとしても、ファンは純粋に喜べるだろうか、と考えてしまう。

 繰り返しになりますがロシア選手の演技は見たい。もちろん見たいけれど、まずはグランプリシリーズに復帰できるかを議論し、国際試合を積み重ねていった先にオリンピックがある──という流れがよかったのではないかと思っています。