G7サミットで石破茂首相(左)と握手する韓国の李在明大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 李在明大統領の日本愛は、今のところ見せかけではないらしい。

 就任早々、過去の合意を踏襲する方針を積極的に発信し、懸念されていた日韓関係の停滞は起きていない。日韓両国民の相手への感情も良好だ。韓国日報と読売新聞が共同で行った日韓関係に関する最新の世論調査では、韓国人の55%、日本人の52%が「良い」と答えている。

 だが、李大統領のかつての言動を思い起こすと、どうしても疑心暗鬼になってしまう。日本を敵性国家と断罪し、日本でも早いうちから対日強硬派として知られてきた。苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのなら、まだわかりやすいのかもしれない。だが、ポーカーフェイスの鉄仮面で淡々と日本批判を繰り広げ、一切の感情を込めずに日本を斬って捨てていた。まさに冷徹無比の李在明だった。

 それからすると、いまの変わりようは、まさに驚くべきことだ。いったいなぜ、対日姿勢を急転換させる必要が、李大統領にはあったのか。

 韓国では「モッコサニズム」という言葉がよく用いられる。これは「モッコサルダ(食べていく)」に英語の語尾である「ism」をつけた合成語だ。生活のやりくりが大変で、庶民が食べていくことばかりを考えてしまう社会風潮を意味する。

 とはいえ、この言葉は、まだ貧しかった時代に使われるようになったのではない。2000年以降、豊かになって先進国への階段を登り切ろうとしているころに広がった。

 この言葉が物語っているように、韓国社会での暮らしは、決して楽ではない。一人当たりの国内総生産(GDP)は日本を抜いたとはいっても、一握りの富裕層に対して、中流以下の庶民が大半を占める。私のように大学で教えていても、ソウル市内や近郊でのマイホームは、とてもではないが手に届かない。日本人にしてみると、想像を絶する格差社会である。