2.ロシアの選挙介入の実態
以下、時系列に沿って、2016年米大統領選挙、2024年米大統領選挙、2024年ルーマニア大統領選挙について順次述べる。
(1)2016年米大統領選挙
ア.全般
2016年に行われた米大統領選挙において、対立する民主党のヒラリー・クリントン候補の選挙戦を妨害し、共和党のドナルド・トランプ候補を勝利させることを目的に、ロシアがサイバー攻撃やSNSを使ったプロパガンダなどの手段を用いて世論工作や選挙干渉を実行した。
ロシアのプーチン政権は干渉を否定していたが、「プーチンの料理人」とも呼ばれる側近で、世論工作の拠点となったインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)の出資者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、2022年11月7日、SNSを通じて、干渉を行なったことを認めた。
イ.訴状の内容
本稿は英BBC「2016年米大統領選に介入でロシア人・企業を正式起訴 米特別検察官」(2018年2月17日)を参考にしている。
米司法省は2018年2月16日、2016年米大統領選挙に介入した罪でロシア人13人とロシア企業3社を正式起訴したと発表した。
起訴されたロシア人13人の中には、「プーチンのシェフ」の異名をとる、実業家エフゲニー・プリゴジン被告も含まれる。
起訴された企業の一つは、サンクトペテルブルクにある「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」である。
米司法省は訴状で、同社が「2016年米大統領選を含め、米政治体制に不和を植え付けるという戦略的目的」を抱えて行動していたと断定している。
ロシア人13人に対する主な訴えの内容は次の通り。
①米国人を装い、米国人の名前で金融機関口座を開設
②月数千ドル分の政治広告を購入
③ロシアの関与を隠蔽するため、米国内のサーバー上にアドレス購入
④米国内で政治集会を組織し、大々的に宣伝
⑤SNSで実在の米市民になりすまし、政治的メッセージを展開
⑥クリントン氏を中傷する情報を拡散
⑦米SNSに投稿するため依頼主から金銭を受領
⑧フェイスブックやインスタグラムを中心としたSNSに、争点となっている話題についてテーマ別グループを作成
⑨月ごとの活動予算は最大125万ドル(約1億3700万円)
⑩クリントン氏に扮した女優が囚人服姿で入れるだけの大きさの檻(おり)製作に出資
訴状によると、ロシア人たちは自分たちの投稿への反応を系統的に計測し、最大限の効果を引き出すために戦術を調整していた。
訴状はさらに、米国人になりすまして渡米したロシア人たちは2014年の時点ですでに大統領選挙にどう影響を与えるか検討を始めていたと指摘。
「2016年の時点で、被告人たちと共謀者たちは2016年米大統領選挙に介入するため、オンラインの架空人格を使った」疑いがあるという。
選挙結果を左右する激戦州を特定し、「クリントン氏に対する中傷的情報を伝達し、テッド・クルーズ氏やマルコ・ルビオ氏などの候補を貶め、バーニー・サンダース氏とトランプ候補(当時)を支持する活動を中心に行った」と訴状は説明している。
クルーズ、ルビオ両上院議員は共和党の大統領予備選挙でトランプ氏と戦い、サンダース上院議員は民主党予備選挙でクリントン氏と戦った。
訴状は、ロシアがトランプ陣営と結託した可能性は示唆しないが、トランプ陣営に関係する「無自覚な人物」が意図せずして、ロシアの介入工作を手伝った可能性に触れている。
共和、民主両党の関係者は訴状発表を受けて、フェイスブックなどのSNS各社に、政治的介入を防ぐよう対策の強化を求めた。
フェイスブックを運営するメタ社は、ロバート・モラー特別検察官の捜査に「積極的」に協力したと述べる一方で、「将来の攻撃を防ぐため、さらに努力する必要がある」と認めた。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は米国の発表を受けて、次のように述べた。
「米司法省によると13人だそうだ。13人が米国の選挙に介入した?」
「13人が、数十億ドル規模の予算のある米治安当局を相手に?」
「諜報や対諜報活動に対抗して、最新の展開や技術に対抗して?」
「ばかげている」
ウ.エフゲニー・プリゴジン氏の発言
世論工作の拠点となったインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)の出資者であるエフゲニー・プリゴジン氏が、2022年11月7日、SNSを通じて、干渉を行なったことを認めた。
プリゴジン氏は、2022年11月8日投票の米中間選挙に干渉しているのは事実かとの記者の質問に「我々は干渉してきたし、干渉しているし、今後も干渉する。外科医のように正確に、入念にだ」などと答えた。
ただし、干渉の詳しい内容には触れていない。