(2)2024年米大統領選

ア.全般

 2024年米大統領選挙では、現職である民主党のジョー・バイデン氏は再選に向け活動を進めていたが、2024年7月21日に選挙戦からの撤退を表明、副大統領のカマラ・ハリスを後継候補として指名した。

 現職大統領の選挙戦撤退はリンドン・ジョンソン以来56年ぶりとなる。

 2024年11月、前大統領の共和党候補トランプ氏が現職副大統領の民主党候補カマラ・ハリス氏を破って第47代大統領に当選した。

イ.訴状の内容

 本項は英BBC「“米大統領選挙2024”ロシアの介入疑惑、右派インフルエンサーらは『自分たちは被害者』だと」(2024年9月6日)などを参考にしている。

 2024年9月4日、米司法省は、テネシー州の企業に1000万ドル(約14億円)を支払い、米国の視聴者に「ロシア政府のメッセージが隠されたコンテンツを制作・流通」させたとして、モスクワを拠点とする国営メディア「RT(ロシア・トゥデー)」の管理者2人を起訴した。

 起訴状には直接、テネシー州の企業の名前は挙がっていないが、米メディアは、「テネット・メディア」と特定した。

 司法省によるとこの資金提供は、「SNS上で親ロシアのプロパガンダと偽情報を広めるためのロシア政府の影響工作」の一環で、ロシア国営メディアの2人の従業員によって行われたという。

 テネット・メディアは、米国の世論を分断することを目的とした英語の動画を様々なプラットフォーム向けに制作するように命じられていたとされる。

 起訴状は、RTの管理者としてコスティアンティン・カラシニコフ被告(31)とエレーナ・アファナシエワ被告(27)を名指ししている。

 司法省はこの2人を、マネーロンダリング(資金洗浄)と、外国代理人登録法違反の共謀罪で起訴した。

 起訴状によると、カラシニコフ氏はテネット・メディアにおけるインフルエンサーの「資金や雇用、契約交渉」などを「監督」していたという。 アファナシエワ氏は編集に関わっていたとされる。

 起訴状によると、同メディアの創業者2人は、「自分たちの『投資家』が実際、事実として『ロシア』だったことを、私的な会話で互いに認めていた」という。

 バイデン米政権は2024年9月13日、RTがロシア政府のグローバルな情報工作や影響力工作で主要な役割を果たしている実態を明るみにした。

 米国の諜報によると、ロシア政府は、グローバルな情報工作に特化した情報収集部隊を密にRT内に組み込んでいた。

 この活動について米当局者は、海外においてロシア政府の機関や代弁者を務めるというRTの役割が大幅拡大したことの一環だと指摘している。

 複数の米当局者によると、活動内容はプロパガンダや情報工作にとどまらず、軍事調達にまで及んでいるという。

 さて、テネット・メディアは「西側の政治的・文化的問題に焦点を当てた、異端なコメンテーターのネットワーク」を自称している。

 テネット・メディアは2022年、保守派のカナダ人ユーチューバー、ローレン・チェン氏と、夫のリアム・ドノヴァン氏によって設立された。

 同社はこの疑惑について公にはコメントしておらず、BBCの取材にも応じなかった。

 テネット・メディアでは、ティム・プール氏、デイヴィッド・ルービン氏、ベニー・ジョンソン氏といった、米国の著名な右派インフルエンサーを雇っている。

 インフルエンサーらは、もしこの陰謀が立証されれば、自分たちは疑惑の「被害者」だと述べている。

 起訴状によると、テネット・メディアでは計画が進行して以来、約2000本の動画をユーチューブに投稿し、合計1600万回以上の再生回数を記録したという。

 メリック・ガーランド米司法長官は2024年9月5日、「この企業は、RTやロシア政府との関係をインフルエンサーやその数百万人のフォロワーに明かすことはなかった」と述べた。

 起訴状によると、コメンテーターたちは巨額報酬を交渉で要求し、特に著名な3人は870万ドルを受け取ったと主張している。

 テネット・メディアの創業者たちは、あまりに簡単に資金が手に入ることを不審に思っていたと言われている。

 起訴状には、テネット・メディアの従業員らが、自分たちが置かれている状況に疑念を抱いていた複数の事例が挙げられている。