おわりに

 権威主義国家が他国の選挙に干渉する問題は、日本にとっても他人事ではない。日本も昨今の選挙でSNSが多用され、偽情報や中傷の流布が懸念されている。

 我が国では、2022年12月16日に閣議決定された国家安全保障戦略において次のように定められている。

「偽情報等の拡散を含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化する。その観点から、外国による偽情報等に関する情報の集約・分析、対外発信の強化、政府外の機関との連携の強化等のための新たな体制を政府内に整備する」

 当時から偽情報拡散の脅威は認識されていたが、その後、具体的な措置は取られなかった。

 そうした中、2025年5月27日、治安やテロ対策などを議論する自民党の調査会の会長を務める高市早苗・前経済安全保障担当大臣らは、総理大臣官邸を訪れ、石破茂首相に提言を手渡した。

 具体的には、日本は諸外国と比べてスパイ行為の対策が不十分だとして、法整備の検討を求めているほか、外国勢力による偽情報の拡散への対処能力に加え、情報収集・分析能力の向上なども図っていくべきだとしている。

 石破首相は「偽情報への対応は急いで取り組まなければならないし、インテリジェンスの強化も問題意識を持って検討していく」と応じた。

 さて、日本の現行法においては、偽情報を流布したという事実だけで罪に問われることはないが、偽情報の流布により何らかの権利侵害があった場合は、名誉棄損罪・信用毀損罪・偽計業務妨害罪などに問われる可能性がある。

 ところが、外国の情報機関員(スパイ)が国内に潜入し、国の安全保障を害する偽情報を流布するなどの、いわゆるスパイ行為を実施した場合に、これを処罰する法律がない。

 スパイ防止法制定の際には、外国政府の後援を得て偽情報を国内に拡散した者を処罰する規定が設けられることを筆者は期待している。