(5)2025年1月16日、やり直し選挙の第1回投票日が5月4日に決定:

 ルーマニア政府は1月16日、特定の候補がSNSで特別な扱いを受けたとして無効となった大統領選を5月4日にやり直すと発表した。

 1回目の投票で得票率が50%を超える候補者がいなければ、同月18日に決選投票を行うとした。

(6)2025年3月9日、憲法裁判所がジョルジェスク氏の立候補却下:

 ルーマニアの中央選挙管理局は2025年3月9日、2024年12月の憲法裁判所判断(注1)を踏まえ、11月の大統領選挙第1回投票で首位を獲得したジョルジェスク氏のやり直し選挙への立候補を拒否した。

 ジョルジェスク氏は、中央選管の決定に対し憲法裁判所に異議を申し立てたが、憲法裁判所は3月11日、訴えを退けた。

(注1)2024年12月の憲法裁判所判断とは、12月6日の大統領選挙の第1回投票の結果を無効とする判断を指していると思われる。すなわち、前述した同裁判所の判例報告に書かれていることが「選挙の手続きに違反した」ことになるのであろう。

(7)2025年5月4日、再選挙の第1回投票:

 再選挙の第1回投票が5月4日に実施された。中央選挙管理局が5月5日に発表した最終結果によると、投票者数は957万1740人で投票率は53.21%だった。

 極右のルーマニア統一同盟(AUR)候補のジョルジェ・シミオン氏が得票率40.96%でトップ、無所属で現ブカレスト市長のニクショル・ダン氏が20.99%で次点となった。

 連立与党の候補のクリン・アントネスク氏は3位で20.07%と、ダン氏にわずかに届かず、敗北した。

 連立政権の最大政党である社会民主党(PSD)の擁立候補が大統領選挙の決選投票に進まないのは、1989年の民主化後初めてとなる。

 前回2024年11月の大統領選挙で2位につけた中道右派のルーマニア救出同盟(USR)のエレナ・ラスコーニ氏は、同党が2025年4月にダン氏を支持すると発表した後も立候補を表明していたが、今回は2.68%と票を伸ばすことができなかった。

 これで、決選投票は米国のドナルド・トランプ大統領の「自国第一主義」に共感を示す極右政党のシミオン党首と、EUとの関係を重視するブカレスト市長のダン氏との争いとなった。

 ルーマニア第一主義を公約に掲げるシミオン氏は、決選投票でも勝利が予想されていた。

 ルーマニアは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中で東側の最前線に位置する。

 決選投票で、極右のジョルジェ・シミオン氏が当選すれば、ルーマニアのみならず欧州はさらなる政治的混乱に陥れられることが予想された。

(8)2025年5月18日、大統領再選挙の決選投票:

 ルーマニアの大統領再選挙の決選投票が5月18日に実施された。

 第1回投票で1位となったジョルジェ・シミオン氏は、大統領に当選したら、2024年11月の大統領選の第1回投票トップであったジョルジェスク氏を首相として任命する方針を表明し、同氏の支持層を取り込んだ。

 5月18日午前にブカレスト近郊でシミオン氏はジョルジェスク氏とともに投票した。

 中央選挙管理局が発表した最終結果によると、無所属で中道の現ブカレスト市長のニクショル・ダン氏が得票率53.60%で、極右のルーマニア統一同盟(AUR)候補のジョルジェ・シミオン氏(同46.40%)を破って勝利した。

 5月4日に行われた再選挙の第1回投票では、シミオン氏が得票率40.96%を獲得し、20.99%のダン氏を大きく引き離して、シミオン氏の当選が有力と予想されていたが、決選投票ではダン氏とシミオン氏による接戦が繰り広げられ、ダン氏が中道や左派の支持層を集めて逆転勝利を収めた。

 決選投票で有権者登録のある1799万人のうち、投票者数が1164万人で投票率は64.72%となり、1996年以来最高を記録した。

 国内での投票者数は第1回投票より140万人多い1000万人に迫り、在外投票では過去最高の164万5000人(第1回投票では97万3000人)が投票した。

 有権者の投票行動をより詳しく見ていくと、第1回投票では、国内のみならず、約97万票(前回選挙と同水準)の在外投票においてもシミオン党首が首位の得票率を獲得していたものの、決選投票では在外投票が約160万票にまで増加し、ドイツやイタリアなど一部の西欧諸国を除き、隣国のハンガリーやモルドバをはじめとした多くの国でダン候補が優勢に立ち、勝利を後押しした。

 ルーマニア国内では、都市部の有権者や無党派層に加え、シミオン党首のナショナリズムに反発するハンガリー系少数民族などからの支持もダン候補に集まった。

 ダン市長は、フランスのソルボンヌ・パリ・ノール大学で数学の博士号を取得した元数学者であり、ブカレスト高等師範学校の創設にも関わり、2011年まで同校で教授を務めた。

 その後、ブカレスト市議会議員、ルーマニア下院議員を経て、2020年からブカレスト市長を務めていた。

 ダン氏は親EU・親NATO路線を支持し、特にウクライナへの支援を継続する意向や、行政改革や政治安定に努めることを表明していた。

 一方のシミオン氏は国家主権の強化を掲げ、EUやNATOに懐疑的な見解を持ち、ウクライナへの支援停止などを宣言していた。

 今後、ダン氏による親EU・親NATO路線の維持と国内政治の安定化への取り組みが期待されている。