「スクールバス」をより社会に寄与する形にするには?

 仮にこの行路のうち、通学の生徒が主に利用する往路の代わりに、公費で賄われるスクールバスを提供することにしたら、どうなるであろうか。現行制度では他の目的の乗客は往路を使えなくなる。おそらく復路も回送とせざるを得ないのでサービスを実現できず、ひいては通勤や通院、買い物が目的での移動を公共交通では担えないことになる。

 このように、財源が目的別で、それゆえに公共交通サービスも目的別のものがバラバラに併存することによって、社会課題の解決に公共交通が寄与できない可能性が十分に考えられる。

 では、通学にかかわる分を公費からの負担としつつ、一般の公共交通として他の乗客も混乗してよい制度設計にできれば、どうであろうか。この場合は往路も復路もサービスを実現できるだろう。通学の課題も、他の社会課題も、まとめて「公共交通」という形で緩和・解決できる。

 このように、さまざまな目的を束ねられるようにして、社会全体での便益を高めるべく戦略的に公的資金を投資していくことで、より積極的に社会課題の解決に公共交通がシステムとして寄与する形にした方が、よりよいあり方ということになる。これは純粋に制度設計の問題といえる。

 公共交通の充実で緩和や解決ができる社会課題は、渋滞の問題や児童生徒・学生の通学、高齢者の移動の課題のほかにも、温室効果ガス排出の削減や、外出機会の向上とそれを通した健康水準の向上、ウェルビーイングの向上など、さまざまある。

 公共交通を社会課題解決のための装置とするカギは、上に書いた省庁の縦割り、つまりは社会課題ごとに異なる費用負担の「財布」の違いと、国・都道府県・市町村という負担する行政の階層の違いを、うまく吸収する仕組みを制度的に作るところにある。この点については次回さらに掘り下げる。