サウジアラビア「肉を切らせて骨を断つ」
原油価格の下落で米シェールオイル産業は打撃を被っており、米国の生産減少の兆候が原油市場で「買い」材料になりつつある。
米エネルギー情報局(EIA)は6日、今年の国内原油生産量の予測を先月から約10万バレル引き下げ、日量1342万バレルとした。だが、今回の見通しに米国の関税引き上げの影響やOPECプラスの3日の合意は反映されていない。
原油価格が1バレル=60ドルを割り込む中、米シェール企業はこぞって事業縮小に着手している。シェールオイルの最大産地であるパーミアン盆地で操業するダイヤモンドバック・エナジーのスタイスCEOは6日「生産要員のリストラのせいで第2四半期から減少傾向は鮮明になる」との見解を示した。
シェールオイルはサウジアラビアにとって目障りな存在だ。苦境に陥るライバルに価格競争を仕掛けてさらなる打撃を与えることが真の狙いなのではないかと思えてならない。
今年第1四半期の財政赤字は156億ドル(約2兆2000億円)と当初の予定の2倍となり、年間でも670億ドル(約9兆6000億円)に達する見通しだが、サウジアラビア政府関係者は「長期間の原油安に耐えられる」としている。
「肉を切らせて骨を断つ」つもりなのだろうが、過去の二の舞となる危険性がある。
サウジアラビアは2014年、米シェール産業潰しのために増産に舵を切ったが、「逆オイルショック(原油価格の急落)」が起きてしまい、自身も深手を負った。
サウジアラビアの今後の動向について、これまで以上の関心をもって注視すべきだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。