救援投手も対象に加えたサイ・ヤング賞

 さて、ここまで日米の「投手起用」の推移、変化について紹介してきたが、筆者が訴えたいのは、日米の「投手最高の栄誉」とされる「賞」の「選考基準」についてである。

 MLBでは「サイ・ヤング賞」が投手最高の栄誉とされる。この稿でも触れたMLB最多勝投手サイ・ヤングが没した翌年の1956年に制定された。

 66年まではア・ナ両リーグから1人が選出されたが、67年からは両リーグから1人ずつ選出されるようになった。

 ここまで見てきたように、MLBの投手起用は、先発主体から分業へと変化したが、これに伴い「救援投手も受賞対象」になり、1974年にはこの年最多セーブを挙げたマイク・マーシャルが受賞した。

 選考基準は明記されていないが、今は完投数や防御率など従来の指標ではなく、投打の総合指標WAR(Wins Above Replacement)など野球の統計学であるセイバーメトリクス系の数値が重要視されるようになった。

 NPBでは「沢村栄治賞(沢村賞)」がこれに相当する。沢村賞はサイ・ヤング賞より早い1947年に制定された「先発投手最高の栄誉」で、当初はセ・リーグの投手に授与されてきたが1989年から両リーグから1人に与えられるようになった。

 当初は「記者投票」で選ばれたが、1982年からは投手出身野球人からなる「選考委員」が選んでいる。この制度になってから、7項目の選考基準を設けることとなった。

 登板試合数 25試合以上
 完投試合数 10試合以上
 勝利数 15勝以上
 勝率 6割以上
 投球回数 200イニング以上
 奪三振 150個以上
 防御率 2.50以下

 2018年からは選考委員が定めるQS=クオリティスタート(7回以上投げて自責点3以下)も参照されている。

1981年、最多勝利(20勝)、最優秀防御率(2.29)、最多奪三振(221奪三振)、最高勝率(.769)の先発投手タイトルを全て独占した巨人の江川卓だったが、沢村賞にはチームメイトの西本聖が選ばれた。この選考結果について東京運動記者クラブ加盟社の部長らによる選考委員会は世論の強い反発を浴び、翌年からプロ野球OBによる選考員会に改められた(写真:共同通信社)