地政学リスクによる上昇圧力も限界?
もちろん、原油価格の上昇要因である地政学リスクも、依然としてくすぶり続けている。
米国とイランは4月26日、中東オマーンで3回目となるイランの核開発を巡る高官協議を実施した。両国の立場に相違は残るものの、交渉の継続で一致した。
協議の進展への期待が高まる中、トランプ大統領は5月1日、SNSへの投稿で「イランから原油や石油化学製品を購入した国や個人を2次制裁の対象とする」と表明した。大口購入者である中国が米国の制裁を恐れてイラン産原油を回避すれば、イラン経済は大打撃を被ることになる。
トランプ氏がこのタイミングでメッセージを発出した意図は不明だが、イエメンの親イラン武装組織フーシ派への攻撃を続ける米軍から「フーシ派を支援し続けるイランへの圧力を強めよ」との要請があったことが関係していると思われる。
トランプ氏の声明が影響したからだろうか、5月3日に予定されていた4回目の米・イラン協議は延期となった。
トランプ氏はロシアへの圧力も高まる姿勢を見せている。ウクライナの攻撃を停止しないロシアに対し、トランプ氏は4月26日「ロシアと取引する第三国を制裁対象にする2次制裁が必要なのかもしれない」と述べた。
トランプ氏がイラン・ロシア両国に対して2次制裁を発動すれば、世界の原油供給量は大幅に減少するのは間違いない。
それでも、米中の需要減に加えてサウジアラビアによる「逆オイルショック」懸念が、地政学リスクを上回る強さで原油価格に下押し圧力をかけている。
原油価格の下落は日本にとってプラスだが、過度な急落は中東地域の地政学リスクを飛躍的に高めるなど副作用も大きい。サウジアラビアの今後の動向について、これまで以上の関心をもって注視すべきだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。