イスラエルにしても、イスラエル国内において過激な右派を中心に、ハマース殲滅のみならず、この機会にガザからパレスチナ人の多くを「自主的に移民」させ、イスラエルの入植地を再度ガザに再興したいとの思惑があるのですから、すぐに恒久的な停戦と撤退を約束するわけにはいかないでしょう。そのような約束をネタニヤフ首相がした途端に、宗教右派政党を中心に閣内不一致が起こり、ネタニヤフ政権はもたなくなるのですから。

 4月24日にドーハにおいてイスラエルのモサド長官のダヴッド・バルネアと会談したカタールのムハンマド首相は、「他の会合と比較すれば、わずかな進歩があった」と指摘しています。現在、ハマースはイスラエル人人質全員の解放と引き換えに、5年続く停戦を主張しているといいます。加えて、ハマースは、イスラエルがガザから撤退するのであれば、ハマースの一部の武装解除に応じることを示唆しています。果たして、イスラエル側はこのようなハマースの提案をどれほど真剣に検討するのでしょうか。

 先週の段階では、ハマースは、イスラエル人人質10人の解放(残りの人質は生存者24人を含め59人。トランプ大統領はもはや生存者は24人より少ないと示唆しています)と引き換えに45日間の停戦というオファーを拒絶したと伝えられています。こうした事実が示しているのは、ハマースが、イスラエル側の停戦へのコミットメントの程度を推しはかっているということなのでしょう。

 現在のガザの状況をいかなる意味でも許容できないエジプトは、間違いなくハマースに対して強い圧力をかけるでしょう。特に、エジプトはハマースの徹底的な武装解除を強く求めています(参考:“Egyptian sources: Breakthrough in Gaza ceasefire talks”,ISRAEL HAYOM)。ハマースもエジプトの支援がなくなれば、ガザでのこれ以上のサバイバルは厳しいことはよく理解しているでしょうから、エジプトの水面下での働きかけが極めて重要な局面を迎えていることは間違いありません。ハマースはガザの多くの人々の命と自らの武装解除をどのように天秤にかけるのでしょうか。

「今日は何を食べましたか」と尋ねるフランシスコ・ローマ教皇

 万が一、停戦が改めて成立せず、イスラエルの空爆による犠牲者の増大に加えて、近いうちに(おそらく子供たちが最初の犠牲者となる)多くの餓死者を生むようなことになれば、中東情勢全般に深刻な悪影響が生じるでしょう。やはりパレスチナ問題は依然として中東政治の一丁目一番地なのですから。この点で、現在のガザの人道危機の深刻化は、パレスチナとイスラエルの紛争の核心に、そして中東全体の平和と安定の核心にあることを忘れてはなりません。

 この4月26日にローマで葬儀が行われたローマ教皇フランシスコは、亡くなる直前までガザにあるカトリック教会の人々に毎晩のように午後7時になると連絡をとり、「今日は何を食べましたか」と優しく質問するのが日課だったといいます。ガザには今でも700人ほどのキリスト教徒が存在します。ガザ北部には、「聖家族教会」というガザで唯一のカトリック教会が存在しているのです。今回、ガザのパレスチナ人のみならず、多くの中東の人々がフランシスコ教皇の崩御を深く悲しんだことは不思議ではありません。

 フランシスコ・ローマ教皇の生前最後となったイースターのメッセージにおいても教皇は、「悲惨な紛争は死と破壊を生み、劇的かつ遺憾な人道状況を招いている。私は紛争当事者に訴える。停戦し、人質を解放し、平和な未来を希求する、飢えた人々を助けるように」と述べています。私たちは、改めてローマ教皇の言葉を噛み締めねばなりません。